「言葉によらない魂の響き合い」忍びの国 シノビさんの映画レビュー(感想・評価)
言葉によらない魂の響き合い
全編にわたって、また下忍から上忍、武家の人間と全ての演者がそれぞれの人間性を非常に的確に表現していたと思う。
その中でも特に強く心を揺さぶられたのは、やはり終盤の二つの場面。
以下はかなりのネタバレになるので、まだご覧になっていない方は、どうぞお戻り下さい。
平兵衛との死闘。川の決闘が始まる前には、十二家評定衆から騙されていたのだと聞かされてもまだ「それがどした?」とニヤリとした笑みを浮かべている。しかし一騎打ちが進むにつれて無門の表情は、ただの真剣勝負をしているだけではない、魂のこもったものに変わってくる。最期には「分かったよ、もう怒るな」と。後は俺が引き受けるから、せめて安らかに逝ってくれと。言葉によらない魂の響き合いをしたことにより、無門の心が、それまで長年封印してきた人間らしさを取り戻し、十二家評定衆への怒りが平兵衛から無門に乗り移った。魂の同化。
もう一つは、お国の悲劇的な最期の場面。
親も身寄りもなくただ自分の忍術のみを頼りにして生きてきた無門が、唯一見つけた命を賭けて守るべきものがお国だった。戦により銭を稼ぐのも、京に逃げて商いで生きていこうとしたのも、ただひたすらお国と共に生きていきたい故だった。そのお国を失う瞬間の絶叫は、いつまでも脳裏に響いている。ごく最小限の言葉のやりとりのみで、ここでも魂の響き合いがある。無門が平兵衛に告げた同じ言葉がお国から一言。
その後、無門がネズミと共に生きていったことがラストシーンで分かる。ナレーションの声が示す年齢のネズミが父母の記憶を懐かしく語ることで、無門が、お国がたいそう気にかけていたネズミを大事に育てることを生きる支えにしていたことが想像できる。
前半でユルく軽く描かれクスクスワクワクさせられていた世界が、後半で別の映画かと思うくらい色を変え、魂を揺さぶられ、気がつけば体に力が入り知らず知らずのうちに涙があふれていた。