劇場公開日 2016年9月17日

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「地味だけど傑作、地味だから傑作!」みかんの丘 ドライトマトさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0地味だけど傑作、地味だから傑作!

2020年7月28日
PCから投稿

1990年頃のアブハジア紛争を背景にした映画。
アブハジア共和国は、ジョージアからの独立を求めてチェチェンなどから傭兵を集めて戦っていた。ロシアは、旧ソ連から脱退したジョージアとは敵対しており、アブハジアの独立に加担していた。

映画は終始、とつとつと同じテンポで進行していく。戦争を題材にした映画だが、派手なシーンや残虐なシーンは無く、視覚的なインパクトは無く、ポツリポツリと語られる言葉や登場人物の心の動きから反戦の訴えを静かに紡ぐ。それは、寂し気な音楽や、緑の深い曇りがちな風景とも相まって、深く心に染み入ってくる。

主要な登場人物は男4人だけ。空間的範囲はイヴォの家とマルゴスのミカン畑の、半径数百メートルの範囲のみ。それで、これだけ深い作品が描けのかと驚き関心した。

最後に、題名にも出てくる“みかん”について考えたい。
みかんはイヴォの友人のマルゴスが育てているもので、マルゴスは「売れば金になるが、金のためじゃない。放っておいてダメにしたくないんだ」と言い収穫を続け、紛争に巻き込まれそうなこの土地から離れられないでいる。イヴォも多くを語ろうとしないが、「この場所が大好きだし、大嫌いだ」と言い、“理由”を抱えこの土地から離れようとしない。
映画では「民族」「歴史」「領土」「戦友の死」「恨み」から解放される兵士の姿も描きつつ、同時に「何かに執着してしまう人間の性(サガ)」も複線的に描いているような気がする。しかも、概念に捕らわれていた者が開放され、開放を促していた者が捕らわれていた。民族紛争解決の難しさを考えさせられる。

ドライトマト