「狂わせるガールに色気が絶無」奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール 曽羅密さんの映画レビュー(感想・評価)
狂わせるガールに色気が絶無
大根仁監督作品を観るのは『バクマン。』『SCOOP!』に続いて本作が3作目になる。
映画として平均以上の作品に仕上げてくるのはさすがである。
ただ大事な「狂わせるガール」は水原希子で良かったのだろうか?
水原がきわどい下着姿になっても全く色気を感じなかった。
じゃあ、彼女の変わりに誰がいるのか?と言われると困ってしまう。
これは日本の芸能界全体に言えることなのかもしれないが、スタイルが良くて透明感のある女優は腐るほどいるのだが、正直色気のある人はあまりいないように思う。
特に若手にいない。
世間には別に美人でもない上にスタイルもそれ程良くないのに妙に色気のある女の子というのが確実に存在する。
天性なのか生きている間に身に付けたのかそこら辺は良くわからない。
たまにBS放送で『御家人斬九郎』を観たりすると、若い頃の若村麻由美に美しいだけでなく匂い立つような色気を感じる。
時代劇なので日本髪や着物を着ていることも加味されているのかもしれないのだが、1つ1つの挙措も美しくそこには色気だけではなく気品も感じる。
水原と同じく東アジア系と白人のハーフでも若い時のジャネット八田の方が色気があると思う。(比較対象が古くて申し訳ない)
彼女もBS放送の萬屋錦之介版『鬼平犯科帳』の1エピソードで見つけてこんな色っぽい人がいたのか?と驚いた。
さすがに現在はお年を召してしまっただろうが、元プロ野球選手の田淵幸一の奥さんであり、フジTVアナウンサーの田淵裕章の母親である。
実相寺昭雄監督作品の『あさき夢みし』でまさに艶技を見せているようなのでいずれは観てみたい。
また冗談抜きで色気だけなら、水原よりもお笑い芸人である相席スタートの山崎ケイの方があるように思う。
それに現実のもてない男たちは水原ではなく山崎のようなタイプの女の子に騙されるように思える。
巷の犯罪をよく思い出して欲しい。
誰もが木村佳苗の顔を見て、こんな女に6人の男が総額2億円も騙し取られた上に殺されたのか、とわが目を疑ったはずである。
彼女はあらゆる面で男を歓ばせるテクニックに優れていたという。
テレビや写真では全くピンと来ないが、もしかすると目の前に立つとそういう魔性のオーラみたいなものを感じさせる女性なのかもしれない。恐ろしい!
本作を観る限り、水原の演じた天海あかりに関しては、付き合うまでは彼女のわがままに我慢はするだろうが、いざ付き合ってしまえばその言動から確実に嫌気が差すタイプに思える。
それに意外にあっさり肉体関係に持ち込めてしまうのもなんとなく拍子抜けしてしまうだろう。
最後に3人で争うほど男をつなぎとめる色気のある女性には思えない。また振られてもお前が好きだ!という馬鹿な男が3人も集まること自体がまれである。
渋谷直角の原作はあかりの内面に踏み込んでいるらしいのでそこに納得のいく説明がされている可能性はある。
ただそれを説明するのは映画的でないとして描かなかった大根の判断は正しいと思う。
だからこそ水原のあの全く色気のないケツじゃ駄目なんだ!と思う。説得力がない!
本作には水原のわざとらしい演技が合っていたのは事実である。ただ残念ながら「狂わせないガール」だ!
妻夫木聡の演じた情けない男に異論はないが、奥田民生になりたいと思ったことも特別奥田に惹かれたこともないのでよくわからない。強いて挙げるなら本作の中で登場した『夢で逢えたら』とか良く観てたなぁぐらいである。
リリー・フランキー演じる話を聞かない自分勝手なフリーライターや気まぐれコラムニストの安藤サクラなど個性的な面々が登場して笑える箇所がいくつもある。
また最後で松尾スズキが新井浩文の顔を十文字に斬りつけてしまうシーンなど、間抜けな男たちの行動の数々にも笑ってしまう。
でもやっぱり水原がなぁ……もう言うまい…
大根は『バクマン。』でも、原作では添い遂げる設定の主人公と彼女を別れさせたり、本作のように女の手玉に取られる男たちを描いたり、『SCOOP!』も結局は福山が死んだことで男女は離ればなれになってしまう。
何か女性にトラウマでもあるのだろうか?
とはいえ、ある意味男の悲惨さを描いているのに暗くなり過ぎず、どこか明るい映画にし上げる手腕はさすが大根である。
色気のある若手の女優か〜、う〜ん、いるのかな?
前述した実相寺や鈴木清順など艶のある女を撮り続けた監督が今の日本の女優を使って同じように作品を創りたいと思うだろうか?
はなはだ疑問である。