「ありふれた「中年の危機(Midlife Crisis)」の物語」王様のためのホログラム 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
ありふれた「中年の危機(Midlife Crisis)」の物語
砂漠と3Dホログラム。どこかミスマッチなようで、ただ広大な砂漠地帯にホログラムが映し出されたらそれは神秘的でユニークな視聴感覚だろうなぁとイメージした。しかし、映画は特にそこら辺には興味がなかったみたい。
この映画は、別にサウジアラビアという国にも、3Dホログラムも、別段取り立てた効果を生むわけではなくて、ただただWI-FIもつながらない不便な土地で奮闘する、中年の危機の男のハートフル・コメディと言った風合いだった。よって、主人公が懸命に売り込もうとするホログラムはほんのワンシーン程度しかお披露目されないし、それも随分簡素なもの。あれ?トム・ティクヴァってこんな映像で満足する人だった?もっと中毒性のあるスタイリッシュな映像を取る人じゃなかったっけ?「トム・ティクヴァ×ホログラム」でもっとすごい映像を勝手に想像しちゃいました。なんか、秀逸な人間ドラマを撮っていたラッセ・ハルストレム監督がいつしか万人向けのハートフルドラマを撮る職業作家のような存在になってしまった時のような落胆。まさかティクヴァ、このままハルストレムみたいな職業作家になんてならないよね?(そういえば「砂漠でサーモンフィッシング」はハルストレムの監督作品か)
内容としても、本当に当たり障りもないハートフルコメディそのもの。失意のアメリカ人が異国の地で惨憺たる目に遭って、でも現地の人と交流していつしか恋までして人生の新たな一歩を踏み出して大団円・・・というお決まりの定石をひとつ残らず踏んだ、極めて普通のコメディ・ドラマ。もちろんそういう作品を否定はしないし、その王道具合が心地いいと思える作品もあるけれど、この映画の場合は、本当に得るもののない凡庸でフツーの映画だとしか感じなかった。
トム・ティクヴァ×トム・ハンクス×サウジアラビア×砂漠×ホログラムという、トピックいっぱいの要素を集めておきながら、ここまでフツーに仕上げられたのはある意味すごいこと?こんなにユニークな要素を盛り込んでいるのに、物語がただただ中年の危機に陥った男のありふれた再生にしか興味がないのは退屈だし、その描き方も極めて手垢のついたようなものであるのも、あまりに拙い気がした。
喜劇センスに疑問はないものの、すっかり貫禄がついたトム・ハンクスのドタバタが、そろそろ笑いにつながりにくくなっているのも、映画が弾けなかった一つの要因かも知れない。