「聞くものは全てを信じるな。見るものは半分だけ信じろ」アサイラム 監禁病棟と顔のない患者たち 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
聞くものは全てを信じるな。見るものは半分だけ信じろ
またしてもB級ホラーチックでピント外れの下手くそ過ぎる邦題には首を傾げるが、作品自体はエドガー・アラン・ポー印の奇っ怪でゴシック調、二転三転する展開、善悪をも問い、見応えあるミステリー。
開幕、ある教授が一人の女性患者を被験体にヒステリーを講義。
その女性患者は助けを求めるが、誰も意に介さない。
実はこのシーン、後々重要な伏線が。(後から言われてみればホントだ…だけど、この時点では誰も気付かないって!)
聞くものは全てを信じるな。見るものは半分だけ信じろ。
不思議な言い回しだが、この謎の教授の講義はまさしく作品を表していると言えよう。
1899年。山奥にあるストーンハースト精神病院を訪れたオックスフォード大の医学生エドワード。
その病院ではラム院長の下、精神病患者に薬投与や拘束など非人道的な治療ではなく、正常者と同じ生活をさせるという人道的で先進的な治療を行っており、ここでの研修が訪問の目的。
院内は和やかな雰囲気に包まれていたが、その中の患者の一人に、開幕シーンの女性患者の姿が。名はイライザ。あの後ここに送られたのか…?
エドワードはイライザの美しさに心奪われるが、イライザは夫の性的暴行で異性に身体を触れられるとヒステリーを起こし、夫の片目を潰した過去が…。
歓迎パーティーの後、エドワードはイライザから「ここから逃げて」と言われる。
地下から謎の音が。そこにいたのは檻に入れられた多くの人たち。
重度であったり危険な患者?…ではなかった。彼らこそ、この病院のソルト院長とスタッフたち。
ラム院長とスタッフたちは元患者で、反逆で病院を乗っ取られたという。
エドワードはラムに就きながら、ソルトらを救出しようとするが…。
医師たちは皆、偽者だった…!
ミステリーではよくあるネタとは言え、管理人の男ミッキー・フィン(“毒を盛る”という意味…!)は危なそうで、ラム院長も尊大な性格。
院内も和やかだが、何処か不穏な雰囲気が…。
ラムもフィンも常々目を光らせ、エドワードは危険な橋を渡る。
…となると、乗っ取ったラムらが悪で、監禁されたソルトらが善と思いがちだが、単純にそうではない。
ソルトらも劣悪環境で監禁されているからもあるが、横柄な態度。
ラムらが反逆を起こした理由…。
かつてこの病院では、ソルト院長の下、非人道的な治療が行われていた。
ラムもその“治療”の一人で、水責めに回転椅子…。
非人道的な治療を行う本物の医師たち。
乗っ取った偽者だが、自然療法を行い、中には回復傾向の患者も…。
どちらが正しいのか、悪しきなのか。
その一方、フィンは逃げた元スタッフを事故に見せ掛けて殺す。
ラムはソルトに電気療法を。しかもそれをエドワードに行わせ、ソルトを廃人に…。背筋の凍る復讐。
そんなラムが精神を病んだ理由。戦時中の悲劇的なトラウマ…。
見る者に善悪を突き付ける。
ミステリアスなケイト・ベッキンセール。
『ハリポタ』から2人。狂犬デヴィッド・シューリスと、ブレンダン・グリーソンは何者…?
オスカー名優2人、ベン・キングズレーとマイケル・ケインの存在感。
豪華キャストの怪演の中、実質主役のジム・スタージェス。大男患者を大人しくさせたり、食事を拒む老女患者を食べさせたり医師として優秀な面を見せるも、比較的地味…。
が、彼こそ二転三転の“三転”だった…!
事件は解決し、再び平穏が訪れた病院に、ある訪問者が。
開幕の謎の教授と、片目の無い男。
片目の男はイライザの夫で、教授の名はエドワード。
彼が本物のエドワード医師で、エドワードを名乗っていたあの青年は偽者で、医師の患者。
病院を脱走し、ある目的の為にこの病院に。
それは、イライザ。
開幕の講義シーンでイライザに一目惚れし、彼女を助ける為に。あのシーンでイライザと入れ替わるようにして連れて来られたのが、“彼”だったのだ…!
あのシーンでイライザを見る誰かの視線(カメラワーク)があるにせよ、ホント言われなければ分からないって!
愛する人を手に入れ…と言うより彼女の“所有物”に。
ハッピーエンドのような、バッドエンドのような…。
善悪やラストのオチさえ見る者を揺さぶる。
聞くものは全てを信じるな。見るものは半分だけ信じろ。
徐々にこの意味も分かってくる。