ロスト・バケーション : 映画評論・批評
2016年7月19日更新
2016年7月23日よりTOHOシネマズ日本橋ほかにてロードショー
アクセサリーがサバイバル道具に!定石に逆らう新鮮なサメ映画
入江に囲まれた静かなビーチにブレイク・ライブリー演じるサーファーがやって来る。そして、沖で持ち上がる波を確認した後、おもむろにTシャツを脱ぎ、際どいビキニの上にウェットスーツを纏い、一気にファスナーを引き上げる。ボードの底にフィンを付け、表面に軽くワックスをかける。これをもしスニークプレビューで観たら誰もがサーフィン映画を想像するはず。でも、その後の展開は正真正銘のサメ映画。撮影当時、ライアン・レイノルズとの第二子を妊娠していたかも知れないライブリーの体は、設定上、サメの牙で引き裂かれることになる(実際はブイに激突して鼻血を出しただけだったらしいが)。
サメ映画の定石に逆らうポイントは、主演女優が美人でスタイルが良すぎること以外にも幾つかある。亡くなった母親が教えてくれたサーフスポットで勢いよくテイクオフしたヒロイン、ナンシーが、突如獰猛なホホジロザメにかぶりつかれ、血だらけで辿り着くのは沖合200メートルの岩の上。ジャンル映画の金字塔「ジョーズ」(75)の主戦場が遙か洋上だったのとは違い、ビーチはすぐこそなのに誰も気づいてくれないもどかしさが孤立感を増幅させる。さらに、岩が水没する、つまりサメの餌になる満潮まで100分しかないという天文学的タイムリミットが精神的な余裕を確実に奪い続ける。どれも、過去のサメ映画にはなかった新しいホラー要素だ。
実のところそれよりも新鮮なのは、医学生のナンシーが女の子らしいツールを使って自ら患部を治療するシーンだったりする。耳たぶに沿った半月状のピアスを針に、ネックレスのチェーンを糸代わりに傷口を縫合したり、ウェットスーツの袖をペンダントで引き裂いて、壊死し始めた脚を圧迫したりetc。アクセサリーがサバイバルの道具になるなんて、サメ映画黎明期には思いも付かなかったアイディアに違いない。劇中で度々時間の経過を知らせるデジタルウォッチの液晶画面、携帯のビデオ通話、最終手段として使われるヘルメットカメラ等、今時のアイテムも瀕死のヒロインを助ける道具として役立つ本作だが、結果的には、主人公の健気さと鮮血滴る太股が目に焼きついて離れない"女性映画"として記憶されそうな気がする。同時に、スーパーヒーローとその不死身ぶりがやたら持てはやされるこの時代に、肉の傷みが伝わることそれ自体、稀なことではないだろうか!?
(清藤秀人)