「映画は、ヒロインに恋しているが。なかなか本音を言えない須賀健太のナ...」獣道 松井の天井直撃ホームランさんの映画レビュー(感想・評価)
映画は、ヒロインに恋しているが。なかなか本音を言えない須賀健太のナ...
映画は、ヒロインに恋しているが。なかなか本音を言えない須賀健太のナレーションによって。地方の閉塞感と同時に、地元とのしがらみ等が邪魔をし、なかなかこの土地を抜け出す事の出来ない若者達の苦悩が語られる。
彼はヒロイン役の伊藤沙莉に恋しているのだが、なかなかそれを口に出して言う勇気が無い。
毎度下衆な人間を魅了的に登場させる内田監督だが、ヒロインの母親役の広田レオナにせよ。ヤクザ役のでんでんにせよ。下衆な人間がただ下衆なだけとしか描けていないのが勿体無い。
特にでんでんに関して言えば、常にチュッパチャプスを咥えている辺りはとても面白く。いかようにも魅了的な下衆な男として描けた筈だと思うのだけど…。
そして、若手女優さんの中でおっちゃんイチ押しの伊藤紗莉ちゃんだが。難しい汚れ役に体当たりで演じていた。
しかし、流石にまだ2時間とゆう尺の長さの中で輝くにはまだまだ早かった様だ。
新興宗教からヤンキー。キャバ嬢を経てAV女優とゆう、いわゆる典型的な絵に描いたよう様な転落劇。
でもその転落劇を、観客側に感情移入させるにはかなりの力量が問われる。
特に須賀健太のナレーションによって話が進んで行くこの作品の場合。実質的な主役は須賀健太で有る筈なのだが、実のところ彼自身はそれ程多く画面には登場しない。従ってヒロイン本人側からの話。(例えば近藤芳正の家族との絡みの場面等)は、その場に彼は居ない訳で。それら感情表現を爆発させる場面等では、映画全体に歪な雰囲気が出てしまう結果となってしまっている為も有るだろう。でも結局のところ、伊藤沙莉本人の演技の質によるところが大きいのかも知れない。
このヒロインは自分の居場所を絶えず探し求めている。その必死な姿に共感こそするものの。周りとの関係から起こす行動等は、なかなか感情移入し辛い人物像で有るし。元々彼女自身が、朝ドラのヒロインに抜擢される様な清純派とも、ちょっと違う感じがするのも少なからず関係するのかも…と。
個人的には、安藤玉恵や江口のりこの様に、ワンシーンの出演のみで画面をさらう様な方面に進むのが良いのでは…と、映画を観ていてちょっと思った次第。
でも今の若手女優さんの中ではピカイチの存在だと思っているのは確か。
そして映画はアントニーと韓英恵の2人の恋愛劇が中盤から始まるのだが。この恋愛劇には基本的に須賀健太のナレーションは無い。
だがこの恋愛劇が本当に良い。2人の出会いから再会・恋愛話。それらは、キャラクター・台詞のやり取りを通じ。観客側に充分感情移入させる様に描かれている。
但しこの2人の話が進んで行く反面で。肝心な主役で有る筈の2人。須賀健太と伊藤沙莉の片想い劇が、逆転現象を起こしており。作品全体を更に歪にさせてしまっている気がする。
アントニーはもらい役。今後は俳優業が忙しくなると思う。
終盤にかけての吉村界人の壊れっぷりもなかなか良かった。
(2017年7月17日 シネマート新宿/シアター1