「殺人の因果」殺人の輪廻 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
殺人の因果
“殺人の輪廻”なんて言うと、例えば殺された主人公が前世の記憶を持って転生し、復讐する…みたいな超常現象的サスペンスを思い浮かべるが、勿論そうでなく。
ある殺人事件が時を経て3人の運命に影響を及ぼす。“殺人の因果”って方がしっくり来るような…。
内容的には安定の韓国サスペンス。
刑務所を出所した男ジチョル。幼い娘ジョンヒョンに会いに行くが、妻は離婚届済みで、話し合いも出来ぬまま追い返される。苛立ち隠せなジチョル男。そんな時会ったのは…
結婚を控えるチョルンとユシン。山道の車中で口論となり、車から降りたユシンをチョルンは置いていく。冷静になって引き返した時、ユシンは…。
山道を一人歩くユシン。そこで会ったのは、ジチョル。
ユシンはジチョルに殺された。
刑事サンウォンの捜査で、犯人はジチョルと特定。妻と娘の元に再び現れた所を押さえようとするが…
自分の娘を盾にするジチョル。
隙を突かれ、落としたジチョルの銃をジョンヒョンが拾い、その時銃声が鳴り響く…。
現場検証。チョルンは激しい憎しみをジチョルにぶつける…。
父親は逮捕され、母親も死んでしまったまだ幼いジョンヒョンを、サンウォンは引き取る。
そして10年後…
高校生となったジョンヒョンとサンウォンは仲の良い実の父娘のように。
ジョンヒョンのクラスに新任の担任が。若いイケメン教師に女子たちは色めき立つが、何処か陰が…。
その教師こそ、チョルン。ジョンヒョンが婚約者を殺した男の娘と知り、この高校にやって来たのだ…。
婚約者を殺された男。
犯人の娘と、引き取った刑事。
ある殺人事件が10年の時を経て、3人の運命を再び狂わす…。
殺人事件はいついつまでも関わった人々に暗い影を落とし続ける。
決してその悲しみ、苦しみ、憎しみから晴らされる事はない。
また新たな悲劇を起こす事も…。
その因果や負の連鎖は胸哀しいものあるが、ちょいちょい「?」に思う事も。
婚約者を殺されたチョルン。自分が婚約者を山道に置いてきたとは言え、事件直後は婚約者の両親にも激しい責められ、最も辛い位置かもしれない。
ジチョルに激しい憎しみを持つのは当然。だからジョンヒョンに当初は憎しみの矛先を向けるのも分かる。が、何故にサンウォンと対立する…?
サンウォンからすれば、犯人の娘と知って復讐に来た…との危惧はあるだろうが、チョルンがサンウォンに反発を抱く理由は…? 仕舞いにはジョンヒョンにサンウォンを殺させようとするし。
娘を亡くした悲しみを乗り越えたユシンの両親。だが、本当は…。サブエピソードながら印象的。
実の父娘のように一見仲良し…に見えて、ジョンヒョンは時折サンウォンに鋭い眼差しを向ける。
実はあの時…
銃を拾った時、サンウォンとジチョルが揉み合いに。ジョンヒョンが「パパ!」と駆け寄り、母親がそれを庇った時、サンウォンが放った銃弾が母親を…。
サンウォンが誤殺してしまったのだ。幼いジョンヒョンは覚えてないかと思いきや、はっきりと覚えていた。ママを殺した男!
今も憎しみを持ちつつ、愛情たっぷり育ててくれた“パパ”。その鬩ぎ合い。
悲しい過去を持つチョルンにシンパシーを感じるストックホルム症候群であり、メロドラマ的でもある。
殺人犯の娘として周囲に知られ、意中の男子からも冷たい視線。
「私は何も悪くない!」…ジョンヒョンの心の叫び。
では、悪いのは誰か…?
そもそもの発端のジチョルか…?
常軌を逸したチョルンか…?
真実を隠したサンウォンか…?
各々の因果が当人たちに。
話的には悪くはなかったが、韓国サスペンスならではのインパクトにはちと欠けたかな。
が、温かいラストは良かった。