「じんわりと涙が出た」花戦さ よとよさんの映画レビュー(感想・評価)
じんわりと涙が出た
皆さん厳しめの評価ですが、私は大好きな映画です。
池坊専好は随分と天真爛漫というか自由というか、変わり者なお坊さんで、生ける花にもそれが表れていました。他のお坊さんはしっとりさっぱり纏まった花を生けるのに、専好一人だけドカンと大ぶりな花で思わず笑ったのは私だけじゃないはず。笑
誰もが畏怖する織田信長を目の前にした時も物怖じせず、ただ花が大好きだという気持ちが全開でした。
そんな専好も、僧たちを代表する役職につき、ただ花を愛でていられなくなって、プレッシャーから花を生けるのが楽しくなくなってしまう。
その悩みを吐露できた相手が利休。
茶室に招かれてお茶をいただいて、心解された専好が子どものように泣きじゃくるのを、利休があやすみたいに慰めるのがとても好きです。
「もう一服飲むか?」と言ってお茶をたててくれるのが優しいのに可笑しい。
利休のおかげで吹っ切れたように花を生ける専好でしたが、今度は利休の雲行きが怪しくなり、しまいには切腹、晒し首。
利休だけでなく、専好の周りの近しい人々が関白様をバカした咎で晒し首。中には幼い女の子も。
幼馴染が目の前で切り捨てられた瞬間、専好の顔から表情が消えて、心の中で何か壊れた感じがしました。
心動かす素敵なものを「この中には仏さんがいる」と評してきた専好が、絶望して「仏なんかいない」と叫ぶとき、見ていて本当に辛かった。
ポスターなどの印象ではもっとコメディっぽくて賑やかな感じだと思っていたので、この辺りの鬱のような展開は衝撃的でした。
序盤の和気あいあいとした空気はここで落とすための布石だったのか?
ここでついに「花戦さ」を行う時ことになるのですが、戦というよりも仇討ちに見えました。
一輪一輪に亡き友人をかさねて名前を呼ぶシーンでもう堪えられず涙が出た。その花には仏さんがいるんですね。
全編通して出てくるお花が素敵なこと素敵なこと。
素人目にも美しい生け花が出てくることがこの映画の説得力を増していると思います。
木を使うときには接木して作品をつくるなんて知りませんでした。
庶民の人々がお寺でお花を習い、当たり前に花を愛でているのを見て、生け花をしてみたくなった。
ドカンとした派手さはないのに、何かじんわりと染みる映画でした。
2時間があっという間。もっと見ていたいという気持ちで、最後まで席を立てなかった。
萬斎さんの表情や演技は素晴らしい。 中井貴一さんの信長が優しく大らか。 佐藤浩市さんの利休もいい味が出ている。 猿之助さんの青筋を立てた悪人の表情から優しい心を取り戻す経過が見事。佐々木蔵之介さん、高橋克実さん、和田正人さん、山内圭哉さん、吉田栄作さん、竹下景子さん、町衆の役者さん達。
豪華な配役に誰が際立っているということはなく、それぞれの素晴らしい演技に引き込まれた。
萬斎さんの言葉は少なくとも、お花に仏様の魂があると言って話しかけるところからじわりと涙がこぼれ止まらなくなった。
松の見事なお花から一輪の優しいお花まで、全ての映像に綺麗なお花が映し出される。見ている者の心も優しくなっていく。改めてお花の美しさ、優しさ、力強さを感じた。
見る人の心も優しくなる。
老若男女、多くの人に見て欲しい映画です。 現代もお花の力を借りて、心優しい世の中になって欲しいですね。