劇場公開日 2017年4月7日

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「愛。」LION ライオン 25年目のただいま ちゃーはんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0愛。

2018年5月28日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

過去が何のためにあるのか、と考えた時に、過去とは「生きてきた道」と考えると、他の誰にも経験し得ない「自分だけのもの」「自分を自分たらしめる唯一のもの」と捉えることができる。

それは、自分にとって高尚なものであり、拠り所になるものでもある。そんな過去を背負い生きていく中で、その過去が、自分や自分をたいせつに思ってくれる人にとって、苦しめる要因にもなる。

過去とは、拠り所でもあり、向き合うべき対象でもある。過去に支えられて生きていける反面、いざ対峙すると苦しみをもたらす。過去と向き合うことほど、孤独なことはないから。

過去に支えられて今ここまで生きてこれた。でも、過去があるから今苦しくて孤独。2つの対立するアンビバレンツな情動を同居させて生きていくことの健全さを感じた。

きっとスラムの子たちは、今自分がどんな過酷で残酷な現実を生きているかさえ、分からない。比較対象がないから。なぜ生きいくのか、なぜ生きているのか、そんな問いとは別次元のところを生きている。それも、先進国に住む人間よりも、人間らしく。

家族のために、親のために、兄弟のために、理屈ではなく、ごく自然のものとして。家族と過ごした日々は、とても幸せなものだっただろう。生まれる場所、時代、親は選べない。そのどうもならない現実をどう生きていくのか。

オーストラリアに行くことだって、望んだことではない。望んで行ったわけではない。でも、オーストラリアの家族は望んでいた。幸せな家庭を用意して。信念を持つ若者を阻む力はどこにもない。望んで探した。母親を。兄を。故郷を。

対峙しなければならない過去。誰にも本当の意味では理解されない過去。それに対して自分はどう在るのか。どう在りたいのか。そこにあったのは、きっと母親や兄との間にある愛。

それでも、人間は弱くて、過去のみに支えられて生きるわけではない。もしも、幼少期に故郷を探せたなら、すぐに探して帰っただろう。でも、再会した瞬間の表情を見ると、自分の生きてきた道を悔いることなく、前を向いて生きていこうと思えたのではないだろうか。

母親の愛、兄の愛、オーストラリアの家族の愛、恋人の愛、それらに対する愛。そんなすべての愛が、再会へと導いた。

ちゃーはん