「上質な戯曲を鑑賞したようなドラン演出の罠!」たかが世界の終わり(2016) HIROKICHIさんの映画レビュー(感想・評価)
上質な戯曲を鑑賞したようなドラン演出の罠!
空白の家族の12年を数時間で再生させる、ドラン演出の妙。冒頭からありえないテンションのキャラクター達!そして、兄の暴君ぶり!!
このエキセントリックな演出にウンザリしてしまう人も多いかと思いますが… しかしこれがドランの“罠”。
普通に描いてしまえばなんてことのない家族の物語を、演劇的にエキセントリックに描くことで、表面的な狂気をあおりその本質を見えにくくする。
その最たる人物が 兄夫婦!この二人の揺るがない夫婦の絆は伏線のみで、あえて描かず兄を狂気のモンスターに仕立て上げる。
これがドラン“才能”と言うか… 確信犯なのか? 鳥肌が立ちました。
そして今まで家族を守って来た家長である兄だけが、弟ルイの帰省のわけを察し、ルイを心の支えとして生きる母と妹をその宣告から遠ざけようとするが…
それがやがてラストの兄の暴走と涙の意味となり、テーブルの下で結ばれていた妻の手により夫婦の絆を確信させる事で、観客は初めて今まで思い込んでいたキャラクターたちの性格がエキセントリックな演出によりすり込まれていたことに気付かされる。
ここで凄いのが、主人公ルイの目線と観客目線が同化させてあり、兄の言動の真意を観客と共に理解する…
鳩時計《家》から飛び出した小鳥《ルイ》は壁《世間》に打つかり、打つかりして… やがてリビングのカーペットの上《家族元で》で力尽き静かに息を引き取る。
わずか1日足らずの物語で家族の空白の12年を再生させ、ルイに自身の死に場所を確信?願望?させ成長させる、ドランの愛に溢れた演出、映画というより上質な戯曲を鑑賞した後のような心地良さの残る作品でした。
言うまでもなくビジュアルと音楽センスは◎。
グザヴィエ・ドラン、これからもますます目の離せない監督であり俳優です。