「映像が独特で美しく、最後まで観てしまった…」聖杯たちの騎士 とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
映像が独特で美しく、最後まで観てしまった…
媚びない。他者を寄せ付けない。
それでも、惹きつけられる瞬間があり、なぜか後を引く。
一応、タロットカードになぞらえ、起承転結の章立てはあるものの、
万人受けする映画ではない。
けれど、はまる人がいるのも納得。自己満映画ギリギリの芸術性。その危うさ・かつ安定さ。そこにはまりそうだ。
自叙伝?
私的な内面との対話。告解を聞くような。禅問答のような。
都会という荒野を、福音を求めてさまようが如くな映画。
キリストが、荒野で、キリストを誘惑する悪魔に出会うが如く、なんてのを連想してしまった。
女の方からしたら、リックこそがファウストかメフィストフェレスかってところだろうが。
キリスト教・聖杯伝説・タロットになじんでいれば、解釈が異なるのだろうか?
写真集にしたいような、愁いを帯びた大自然。無機質な建造物。
この角度でとらえるかという独特なアングル。
なんという海の色、
空の表情の豊かさ、
山脈の美しさ。
羊水に抱かれ、禊をし、
帰るべきヘブンを思うが、夢のまた夢、
自分がどこにいるのか、方法さえわからない。
そして、役者の演技。
ポートレート的映像とは違う。演技が映像の一部になる。この感覚も独特。初めての体験。
ちょっとした表情・体の線で様々なことを(言葉なく)雄弁に語るブランシェットさん。
喚き散らして映像から飛び出してしまったポートマンさんとは違う。
映像に飲み込まれてしまった他の役者とも違う。
格の違いを見たような気になる。
演出上の差なんだと思うけれど。
そして、この映像にこの音楽を合わせるかという感覚。
何かよくわからない、自分自身の心の窓が開いてどこかに繋がりそうな感覚。そう、繋がらない。繋がりそうなだけ。だからもどかしくフラストレーションがたまるのだけれど、そのもどかしさが後を引く。
映像でしか紡げない世界観。
その掛け合いの妙は『2001年宇宙の旅』くらいに意味不明。
だからこそ、解明したくなる?
ただ、物語の緊迫感が全く違う。
『2001年宇宙の旅』は、何か新しいものが始まる予感を感じさせてくれた。けれど、この映画は、映画の雰囲気におぼれそうになる。ラストに何を意味付けするのかによっても、映画への評価が変わってくる。
ていねい・緻密に、自己と向き合いながら、真摯に作った作家性の強い映画。
とはいえ、登場人物や語りに感情移入がし難く…。
語り・音楽は盛り上がりがなく淡々と…。
余程、この監督やこの手の映画が好きでないと…。