「「火の鳥 復活篇」的展開と思いきや」アノマリサ LittleTitanさんの映画レビュー(感想・評価)
「火の鳥 復活篇」的展開と思いきや
後はグチになるので、褒められる点を最初に述べます。
それは、ストップモーションアニメの技術です。
カウフマン作品だという以外の予備知識なしで観たので、最初フルCGアニメかと思っちゃいました。
にしては、動きがぎこちない箇所があるなと思ってましたが、まさかストップモーションアニメとは。
それでおいて実写と見紛う表情の表現には感服します。
ただ、そこで描かれるのが大半おっさんというのが残念ですが...。
主人公(マイケル)とヒロイン(リサ)以外の声は、Tom Noonanというおっさん俳優が担当。
主人公には、女性の声も子供の声も、ソプラノ曲の「ラクメ」ですら、同じおっさんの声に聞こえちゃうウンザリな状況。
似てるなと思ったのが、手塚治虫の「火の鳥 復活篇」。
大事故から大手術で復活した男は、その後全ての人間が異形な無機物にしか見えなくなります。
傍目には美人の女性を目の前にしても、吐き気がする塊にしか見えません。
ところがある日、異形の群衆の中に美しい女性を見つけます。
男は一目惚れし、出会いを重ねますが、その女性は実際には人間ではなくロボットでした。
男は"彼女"との関係を周囲に反対されるが、逃避行し、最終的にロボットに脳を埋め込んで一体化し、純愛を貫く。
「アノマリサ」でも、唯一女性の声そのままに聞こえるリサと、主人公は出会います。
リサは自身の講演を聞きに来たファンだったこともあり、楽しく酒を飲んだ後、一夜を共に。
ただ、カウフマンの作品だけあって、漫画のように純愛がスタートする訳ではありませんでした。
妻とも別れるとか言った傍から、主人公はリサの朝食の食べ方や喋り方にいちゃもんを付け始め、次第にリサの声までおっさんの声に聞こえるように。
自分は、ここら辺でかなりがっかりしました。
人間の描き方としてはリアルと言えばリアルだけど、結局ベッドに連れ込むまでは甘い言葉を囁いて、自分のモノになった途端、特別な相手ではなくなってしまう。
そもそも、前日には十数年ほっといた元カノとワンチャン狙っていた、自分勝手なおっさんにすぎない。
男としてはある意味リアルなんだけど、うーーんそれを映画で魅せられても...。
他の方の感想や解説にあるように、帰宅後日本女性を象った大人のオモチャに精液がついてると妻に指摘される所や、オモチャの顔とリサに同じ傷がある所から、リサとの出会いは妄想なのかもしれません。
ただ、ラストにリサが手紙を書くシーンがあるので、妄想だとすると映画表現として矛盾を感じます。
また、様々な暗喩は「隠れたゲイ心からとの葛藤」という解釈も頷けます。
飛行機で男性から手を握られることへの拒否や、夢の中で男性支配人から愛してると告げられて逃げるシーンは腑に落ちます。
ただ、隠れゲイだとするなら、男性に抗いがたい魅力を感じるシーンを作ってもらはないと説得力がありません。
自身全くホモっ気がないので理解できないだけかもしれませんが、結局女性の声に魅力を感じる様が描かれているので、本当に隠れゲイを描いているのだとしたら、かなりの駄作ですね。
また個人的に本作の嫌いな点が、幼い子供の声まで、Tom Noonanの声に聞こえているという演出。
所詮他人である妻に関しては、愛が薄れてその他大勢と同じ存在になってしまうことは、褒められた話じゃないけどあるかもしれません。
だけど、幼気な子供に大人のオモチャを渡したり、その他大勢と同じ扱いな主人公は、人間として終わってます。
「エターナル・サンシャイン」の熱烈なファンとしては、カウフマンの作品にケチを付けたくないのが本音です。
「エターナル・サンシャイン」の主人公も、元カノを罵るなかなかのダメ男。
でも、その彼女への離れがたい想いが描かれるラストに感動しました。
しかし、本作は残念ながら主人公に同情できる部分も、共感できる部分も全くありませんでした。
これが中年男の悲哀だとしても、原因はあんた自身そのものだよね。