劇場公開日 2017年5月6日

「音楽、美景、人間ドラマの絶妙な3重奏」追憶 みかずきさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0音楽、美景、人間ドラマの絶妙な3重奏

2023年4月26日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

観終わって、久々に典型的ではあるが良質な日本映画を観たなと感じた。本作は、甘美な挿入歌、美しい日本の原風景を巧みに織り交ぜた、過酷な運命に翻弄される男達の重厚な人間ドラマである。名作『砂の器』に代表される情緒的な日本映画の良さを愚直なまでに継承している。派手ではないが、きめ細やかな丁寧な描写で、観客の心に静かに響く趣のある作品である。

主人公は、富山県警の刑事・四方篤(岡田准一)。幼少期に、主人公と2人の幼馴染、田所啓太(小栗旬)、川端悟(柄本佑)は、ある事件を起こし、その過去を封印して生きてきた。しかし、その後、数十年後に発生した殺人事件のよって、被害者、容疑者、そして刑事という立場で、3人の運命は再び交差する。容疑者である啓太(小栗旬)を信じたいという思いと、彼が犯人ではという思いが交錯して苦悩する主人公。ドラマは、過去と現在を行き交いながら、3人の人生を炙り出していく。そして、次第に事件の核心に迫っていく。同時に、幼い時の3人の救世主だった女性・仁科涼子(安藤サクラ)の数奇な運命と彼女を巡る3人の想いが明らかになっていく・・・。

登場人物が多いので、いくらでも人物像を膨らますことも、サイドストーリーを盛り込むことも可能だったろう。しかし、敢えて、殺人事件を軸にしたストーリーと殺人事件に関わった人物像に絞り込むことで、余韻が残る心洗われる人間ドラマになっている。また、本作は、昭和の雰囲気が色濃く残っている作風だが、色褪せた感じはしない。それは、本作が、普遍的な人間の感情を描いているからである。

仁科涼子を演じる安藤サクラの演技力が抜群。台詞は少ないが、表情と佇まいで、薄幸の運命と主人公達への慈愛に満ちた想いを見事に表現している。岡田准一は、刑事としての正義感、だらしない母への想い、妻への想いなど、複雑な心境で不器用な生き方をしている主人公を硬派な演技で好演。特に、正義と友情とのあいだで揺れ動く心情を熱演している。小栗旬も、一見優しそうではあるが、どこか謎めいた流石の演技がGood。

甘美なメロディーと日本の原風景の象徴である夕陽の美しさが際立つエンディングが作品全体を集約しているようで、悲しく切ない。

本作は、名匠降旗監督の手腕が冴え渡る、大人が鑑賞できる邦画の良さが光る作品である。

みかずき