「浸透速度」3月のライオン 後編 U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
浸透速度
こおいうテイストの原作モノは、残酷なまでに時間が足りないように思う。、
前編で色んな下準備をし、人物の背景を特異なもの、もしくは印象が強いものを挿入していくわけなのだが…充分な下準備があったものの後半で扱われるシチュエーションの内容が繊細すぎて、前編の内容だけではフォローしきれないように思う。
とても良い話なのだ。
あやふやな存在意義と自己否定にがんじがらめになり、不必要だと非難される。
そんな主人公が、周りを意識し、自らの存在意義を求め、他人に踏み込む勇気が芽生え、それでも悩み、足掻き、苦しみ、後悔し、1人では決して味わう事のない痛みを、享受し、それでも「僕にはあなたが必要なんです」と、すがるにも似た面持ちで叫ぶ。
ラストには、迷いの無い真っ直ぐな目で、生きていく支えとでもいうのだろうか?
そういうものの手応えを確かに感じ、また自身もそこに疑問を抱かず、寄り添える。
とても、とても感動的な成長譚なのだ。
だけど、
物足りない。
その裏側を補完するには、前編と後編だけでは足りないのだ。
然るべきエピソードを語らんがために、その一つ一つに割ける割合が少なくなる。
吟味し、構築し直しても器自体は大きくならない。
原作の場合は、その流れとともに主人公の変遷にゆっくりとシンクロしていけるように思う。彼が悲しむ事に悲しみ、後悔する事に、同じように後悔していけるように思う。
それくらい活字と画は、読み手の浸透速度を左右せず其々に最適な速度で、世界観に没入させてくれる。
そこで初めて、この作品の核に触れられるような気がする。
だが、
映画には時間の縛りがある。
前後編に分け、それでも観客の浸透速度に敬意を払ってくれたんだと思う。
だけど、それでも…足りないのだ。
ブツ切れのエピソードに、いつしか時系列を追う事に気を取られ、主人公の変化とそのキッカケを咀嚼する前に、物語は進んでいく。
仕方がない。
仕方がない事なのだが…口惜しい。
ここまで作品のキャラを反映した作品。
正しい楽しみ方は原作とセットで鑑賞するのがベストかもしれない。
登場人物が背負ってるものを、割愛されたエピソード、割愛せざるを得なかった時間の流れ、うねり、そんなモノとともに補完しなが作品を観れると、また違う印象になるのではと思う。
物語はホントに良かった。
この作品自体も個の役者の作品への貢献度は言うまでもなく、もの凄い密度と情熱を注いだ良作だ。
カメラのアングルやフレームにさえ愛を感じる!
だが、これ単体ではどうにも食い足りないと、思える余白を感じてしまうのだ…!
原作未読ながらに身悶える。
そして、俺は勘違いしてたのかもしれない。
これは「彼」の話しなのだ。
彼と何かの話しではなく「彼」のみの物語なんだ。
彼に起こる日常を、彼に寄り添い傍観していく物語なんだろうな、きっと。
そうか、洋菓子の作品じゃないんだな。
和菓子的な作品なんだな。