「好奇心や知識欲をかきたてられる、教皇の人となりを知る初めての映画」ローマ法王になる日まで Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
好奇心や知識欲をかきたてられる、教皇の人となりを知る初めての映画
タイトルを直訳すると、"フランチェスコと呼んで、教皇"。
現役(第266代)のローマ教皇(法王)であるフランシスコの激動の半生を描いたイタリア映画である。ローマ教皇というと、"雲の上の人"というイメージ。その活動や発言はいかにも厳かで、プライベートはベールに包まれている。
教皇の私的な素顔や経歴に迫った実話モノというのはあまりなく、これは珍しい。しかし教皇は出世や選挙によって、すべてのカトリック教会の頂点に就任するわけだから、世襲制の王族などとは違い、元々は一般人である。
そして、これが映画として成立するほど、ダイナミックな実話モノなのである。コンクラーヴェで教皇に選ばれたフランシスコが過去を振り返る形で、映画は進行していく。
フランシスコの本名は、ホルヘ・マリオ・ベルゴリオ。史上初めて新大陸(南北アメリカ)出身者として教皇に就任した人物である。今年81歳になるフランシスコ教皇は、イタリア移民の子供としてアルゼンチンのブエノスアイレスに出生。イエズス会に入会して神に仕えることを決心したのは20歳のときなので、恋もすれば、愛する恋人もいたのである(カトリックでは禁止)。
その後、30代で母国アルゼンチンは軍事独裁政権の時代を迎える。庶民が苦しみ、多くの人々が監禁・誘拐・行方不明になる恐怖政治の下で、仲間の司祭を銃殺されたり、友人も失う。教会の管区長としての立場からカトリック教会の体面を守らなければならない中、レジスタンスを人道的に救う方法を模索したり、貧しい人々の苦しみを背負いながら布教活動を続ける。
時には権力と闘い、その心は、いつも最も貧困に苦しむ人々とあり、周囲の支持によって自然と出世していく。枢機卿としてアルゼンチンからローマに旅立つときには、多くの地元民に惜しまれた。
フランシスコはカトリック教会の厳しい戒律に対しても、柔軟に改革をしていこうとするスタイルを持つ。破門がルールの"離婚"からの"再婚"を認めたり、片親の子供の洗礼式を執り行ったり、ロックな教皇と言われる所以である。
日本はほとんどがキリスト教徒でもないし、ましてやカトリック信者は江戸時代よりも減っている。カトリックのルールなんて知らない日本人が観ても、人間として悩む、神父の心に同情するし、フランシスコの、"人となり"を、共感をもって知ることができる。
なによりも好奇心や知識欲をかきたてられる映画になっている。オススメ。
(2017/6/6 /ヒューマントラストシネマ有楽町 /シネスコ /字幕:ダニエル・オロスコ+山田香苗)