劇場公開日 2016年6月10日

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「1%が儲かるシステムを吹っ飛ばせ!?」マネーモンスター ユキト@アマミヤさんの映画レビュー(感想・評価)

4.51%が儲かるシステムを吹っ飛ばせ!?

2016年7月17日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

怖い

興奮

知的

僕は会社を辞めた後、しばらく株のデイトレードにハマっていた時期がある。
1年目は散々な結果だった。なけなしの貯金は半分まで減った。
いろいろガチャガチャやってみて、自己流の勝ちパターンを見つけた。
それ以後「現状維持」だけはできるようになった。
株式投資をやってみて、わかったことが一つだけある。
株は「ギャンブル」であるということだ。
「資産運用」などという「美辞麗句」に惑わされてはいけない。
もう一度言う。
株はまぎれもなく「ギャンブル」そのものなのだ。
パチンコやスロットなどより、もっともっとタチが悪いのだ。
僕のような個人投資家は、業界用語で「ゴミ投資家」と呼ばれている。
日本の株式を操っているのは、ご承知の通り、巨大な海外の機関投資家である。
決して日本の投資家たちではない。
僕は毎日、毎朝、株式相場が始まる前に、パソコン画面で各銘柄(会社の株をこう呼びます)の値動きや「板情報」と呼ばれる、その株の「売り」と「買い」の予約状況をチェックしていた。
朝9時前、市場はまだ開いていない。
しかしなぜか開始時間前から「買い」が殺到している銘柄がある。
不思議に思って、その会社の直近のニュースと四季報をチェックする。
さらにはチャート(株価の値動きを示す折れ線グラフ)を調べる。
おかしいぞ!?
「買い」を判断できる材料が何も見つからない。どうみたって「クズ株」だ。
9時。株式市場が開く。
途端にその銘柄は「ストップ高」!!
「買い」が殺到しすぎて値段がつかないのである。
その日の市場が閉まり、午後4時半ごろ。
異常な「買い」があった会社からニュースリリース発表。
その内容は、例えば「大規模リストラ決定」「工場撤退」いい場合は「特許申請」など。
会社の病巣を切り取ってしまえば「会社という患者」は快復する。
今後良くなる見込みが出てくる。
株取引の世界においては、従業員が安心して働ける環境など「戯れ言」である。
だから、ネガティブな情報でも、市場は好感度を持って、素早く反応する。
ではなぜ、この銘柄、この会社に、朝一番「買い」が殺到していたのか?
誰も知りえないはずの内部情報は、いったい誰が掴んだのか?
これを「インサイダー取引」でない、と断言する勇気は僕にはない。
誰かが情報をリークしたのだろう。
こんな例は、もうウンザリするほど毎日起こっている。
僕のようなアマチュア株トレーダーでも、こんな株式市場の現象は、何度も経験しているはずだ。
株式市場でうまく儲けるコツは、いかに有力な情報をいち早くつかむか!
それに尽きるのだ。
その情報を得るためには、有力な人脈のネットワークが必要だ。
素人投資家、一般人に、そんなネットワークや情報など望めない。
僕たちは、村上ファンドでもなければ、ホリエモンでもない。
情報が欲しければ、それに見合った巨額のアドバンス(前渡金)を準備しなければならないだろう。
そして今日も、我々ゴミ投資家の「なけなしの金」を株のプロたちが、ゴッソリかっさらって行く。
株式市場は、金持ちがさらに金持ちになるシステムの一つなのだ。
愚痴っぽい、長い前置きになってしまった。本当に申し訳ない。

さて、本作は、株情報番組「マネーモンスター」を見て株を買い、全財産を失ってしまった若者が自暴自棄になり、爆弾を持ってテレビ局に侵入。生放送中の当番組を乗っ取る、というお話。
テレビキャメラは、犯行の一部始終をリアルタイムで放送する。
これは犯人の要求なのだ。
ジョージ・クルーニー演じる主人公、リー・ゲイツ。
彼はこの「マネー・モンスター」という番組の、人気パーソナリティーだ。
犯人カイルは、ゲイツに爆弾入りのチョッキを着用させた。
彼の手は起爆スイッチを押し続けている。
カイルが指を離せば爆発する仕掛けだ。
その瞬間、キャスター、スタッフもろとも、スタジオは吹っ飛ぶ。
こうして、彼ら番組スタッフは、運命共同体にさせられてしまう。
もちろん警察の特殊部隊も動いた。
狙撃班がスタジオにこっそり侵入。犯人カイル、そして、ゲイツのチョッキに付けられた起爆用受信機をねらう。
警察幹部は特殊部隊の隊長に問いただす。
「生存率は?」
「まあ、80%ってとこです」
「低いな」
スタジオを仕切るのは、現場の女性ディレクター、パティ(ジュリア・ロバーツ)。
ゲイツはイヤホンをつけている。
ディレクターのパティは、犯人カイルに気づかれないよう、イヤホンでゲイツに指示を出す。
「犯人に話しかけて。時間をかせいで!!」

「マネーモンスター」は、司会者ゲイツの軽妙なトークが売りだ。エンターテイメントとして、番組を楽しませる工夫も盛りだくさん。
退屈な株情報番組ではない。
番組自体を1つの「ショー」として成り立たせている。
この番組が、高視聴率を稼いで、放送を続けてこられたのは、キャスターである、ゲイツの人気、番組構成、演出の面白さ。
何より重要なのは、ゲイツの情報の信頼性だったのだ。
だから一般ピープルは、パーソナリティーのゲイツを信じて、株を売買するのだ。
犯人カイルも、それを信じた。そして全財産を失った。
人気キャスター、ゲイツが勧めた銘柄は、なぜ大暴落したのか?
なぜ怪しい値動きをしたのか?
さて、犯人カイルはピストルを持っている。
もう一つの手には起爆装置。いつ爆発してもおかしくはない。
そんな緊迫した状況下、ディレクターのパティは、暴落した原因を探るべく、その会社幹部へ直撃取材をするよう、スタッフに指示を出す。
やがて取材班は、その会社のCEOが暴落の当日、不審な行動をしている、という情報をキャッチする……。
本作、ジョディ・フォスター監督の緊迫感溢れる演出、これはいいねぇ~。
キャスティングも秀逸。
軽妙洒脱なトークを操る人気キャスターに、ジョージ・クルーニーを据えたのは悪くない、というか大正解だろう。
ジュリア・ロバーツのディレクター姿も凛々しい。
アカデミー賞俳優たちの演技は、それはもう、ケチのつけようがない。
そんな中、僕が特に注目したのは犯人の若者カイル。
演じるのは、イギリス人の俳優、ジャック・オコンネル。若干25歳。
犯人ではあるのだけれど、思わず、応援、感情移入したくなるような、そんな演技の持って行き方がいいね。とても切迫感があった。
本作は「株」なんて特に興味がない、株の知識なんてない、という方にも十分楽しめる。もちろん株の基礎知識があれば、面白さは何十倍にもなる。
もう十分にお金を持っているはずなのに、それでも、さらに儲けようとする
「マネー」に取り憑かれた「モンスター」たち。
いまや株の売買は、優秀なコンピュータソフトによって、1,000分の1秒単位で「売り」と「買い」をこなしてしまうと言われている。
そうして巨人たちは「利ざやを稼ぐ」
また、そのような電子取引によって、市場が大変な混乱に陥ることもある。
こんなソフトを開発し、あるいはそれを購入して、利用できるのは巨大資本だけなのだ。
巨大な資本を持つ者だけが、より巨大で「おいしい」利益を享受できるのだ。
とり残されたのは、まさに99%の一般人たち。
もし巨人たちのシステムがクラッシュして、市場が大混乱に陥れば、実体経済へも影響は免れない。
長期的に見れば、景気さえも左右する。
そして景気後退の波に直撃されるのは、何の罪もない、一般市民だ。
悪くすれば職を失うだろう。
リーマンショックのとき、どれだけの人が、家を手放し、ホームレスになったか?
社会の底辺で最も弱く、市場とは何の関わりもない人たちが、最も深刻な被害を受けるのだ。
本作の中で、犯人の言動に、親近感を抱きはじめる視聴者、一般人たち。
彼らの眼差しを映し出すハンディカムの映像。
こんな「暴走するマネー主義」への異議申し立て、一般人の心を代弁したジョディ・フォスター監督に拍手を送りたい。

なお、参考までに、マネー資本主義に疑問を呈した
マイケル・ムーア監督の「キャピタリズム マネーは踊る」

また、マーケットは「成長し続けることが前提」という「幻想」は「そんなの、おかしいんじゃない?」と素朴な疑問を呈した
「シャーリー&ヒンダ ウォール街を出禁になった2人」
もオススメしておきたい。

ユキト@アマミヤ