劇場公開日 2017年5月26日

  • 予告編を見る

「どうしようもない断絶が生まれた一家の再生劇」美しい星 マルホランドさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0どうしようもない断絶が生まれた一家の再生劇

2021年6月6日
iPhoneアプリから投稿

正直途中まで乗れなかったしキャラクターに感情移入しずらかった。主人公一家がそれぞれ自分を宇宙人だと錯覚し独自に行動していく。リリーフランキー演ずる父親は陰謀論のような物にハマり暴走していく過程がどうしようもなく哀れに感じたり、橋本愛演ずる娘は路上ミュージシャンに騙され、知らない間に孕まされてしまう。おそらく薬を飲まされてレイプされたと思うが自分が選ばれた存在であり、自分をはめた男のことを庇おうとする。リリーフランキーはそんな酷いことをする対して冷めた態度でそれを俯瞰し、娘と話そうとする。

父親は愛人とドライブ中眩しい光を見て意識が戻ったときには田んぼの真ん中に突っ込んでいた。それを彼は宇宙人が自分を攫い、自分が宇宙人だと錯覚して、テレビを通じて地球の温暖化を訴える。それが陰謀論をひたすら唱えこちらの不安を煽る煽動者に見えて正直辛かった。息子も自分を金星人であると信じ込み独自の路線で日本を変えようと政治家の道へ進もうとする。バラバラに進む一家を見ていてそれがむず痒く、見ているこちらとしても焦燥感が生まれた。しかし終盤、父親の癌が発覚しそこからの家族が一体となり、最後の時に病室から連れ出そうとする姿を見てそのイライラは消えた。おそらく彼らは自分が特別なのだと信じたいがどこかで信じきれてなかったのかもしれない。娘は病室で父と対話するとき、そこでも自分を宇宙人だと言い続けるがきっと辛い気持ちを隠すために嘘をつき続けたのだと思うと切ない。

また劇中の音楽のセンスがずば抜けてよく場面に合わせてよく練られた作りになっていると思う。橋本愛が空に向かい交信するシーンや父親が視聴者に温暖化を訴えかけるところ、亀梨がメッセンジャーとして自転車を飛ばすシーンにかかった曲は見ていて高揚感すら感じられる見事にテンポが効いたリズムでめちゃくちゃかっこいい。

またこの中でも佐々木蔵之介の演技がピカイチで、彼はもしかして本物の宇宙人なのではないかと思ったりもした。それくらい異質だが説得力のある凄みがありカッコ良かった。

マルホランド