「米国版出羽守(べいこくばんでわのかみ)」マイケル・ムーアの世界侵略のススメ うそつきカモメさんの映画レビュー(感想・評価)
米国版出羽守(べいこくばんでわのかみ)
その昔、日本の政治、経済などの文化人に「欧州出羽守」という揶揄がありました。
「ドイツでは、教育のシステムが……」
「北欧では、福祉のレベルが……」
「スペインでは、労働の環境が……」
「オーストラリアでは、環境保護の法律が……」
などと、とにかく日本がどれだけ遅れているかを知らしめるために、よその国を持ち上げまくって、それを新聞やテレビで有難がって意見をちょうだいするという図式の論説で、例えば、「夏時間を導入すれば、これだけの経済効果がある」とか、「金融ビッグバンで、貯蓄は紙切れになるから、株式と金に三分しろ」みたいな暴論を平気でぶちあげる輩です。
それぞれ、民族性も違えば、風土、文化、特産品も、経済基盤も、当然ながら国家予算も格差があるというのに、その国の優れた一面を切り取って、それだけを真似したところで、必ずどこかにしわ寄せが来るはずなのに。
現に、民主党政権下で、高速道路の無料化なんか実現したものの、すぐに財源が不足して終わったように、ドラスティックな政策などは「無理が通れば道理が引っ込む」そのまんまの結末を迎えたりしました。
この映画は、アメリカの抱える問題を浮き彫りにするのに、「よその国はこれだけ素晴らしい事を実現していますよ」ということをムーア監督自らが体験リポートを続ける、長編ドキュメンタリーで、病める大国アメリカの社会問題を取り上げるよりも、
・イタリアでは有給休暇の消化率が高い、アメリカは?とか
・フランスでは給食がバカ美味い、アメリカは?とか、
・フィンランドでは犯罪者の再犯率が米国の20%だが、その要因は?とか、
まさに、「欧州ではの神」現象そのものでした。
何となく頭が良くなった気になるフィルムで、この映画を見た、ただそのことだけで、人と違う優越感に浸らせてくれる魔法の映画です。
それでも、黒人の社会的地位を押さえつけたい「白人至上主義者」たちの視点から、ドラッグを規制することが黒人を支配するのにどれだけ効果的かという論点は、非常にユニークで、「合法なものにしてしまえば、彼ら(黒人)だって社会不適合者の烙印から解放される。真の自由競争に近づく」と言う意見をどこかの国(ちょっと忘れました)で真顔で主張しているのには、眼からウロコの瞬間でした。
「アメリカ国内の、南部の州で、いわばアヘン戦争的な構造支配のツールとして、ドラッグが一翼を担っている」というのは、暴論のようで「さもありなん」と思えるものでした。
かつて禁酒法と言う悪法に踊らされた国が、ドラッグを取り締まることで起きる衝突よりも、合法なものにして依存症の治癒に取り組んだほうがメリットが大きいという主張です。貧しい黒人たちがドラッグの快楽から抜け出せずに、日銭を稼ぎ、命を散らしていく構図は、薬物を違法にしていることが原因だという理屈で、どこかの国(忘れました)では、ドラッグは合法で、使用者が犯罪を犯す確率はむしろ一般人よりも低い、とか。健康被害も、むしろドーナツやハンバーガーを毎日食べているよりも低い、みたいな論調でした。
日本に生きていて、マイケル・ムーアの主張を「丸のみ」にはできませんが、そんな考え方があったのね。という勉強にはなりました。