「人生最期の一手」聖の青春 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
人生最期の一手
“西の怪童”と呼ばれ、あの羽生名人を一度負かしながらも、29歳の若さでこの世を去った天才棋士、村山聖の実話を映画化。
彼の事は勿論、将棋のルールすら分からないレベル。
だから対局シーンも、確かに緊張感は伝わるが、何がどうなってるか分からず、嗚呼残念!
しかし映画は、村山聖という一人の青年の姿に焦点を当てた人間ドラマとして難なく見れる。
どの世界に於いても、天才と呼ばれる人物は変わり者が多い。
彼も例外に漏れず。
肥満体。ある理由から、髪も爪も伸ばしたまま。(あんな爪で指せるとは…)
少女漫画好き。部屋は漫画本が山のように積み重ねられ、散らかし放題。
こだわりの偏食。
酒癖が悪く、アルコールが入ると、暴言を吐く。
…などなど、かなりのダメ人間だが、彼の人生はずっと病気との闘い。
幼少時から患う“ネフローゼ”という腎臓の難病。
将棋界にその名を轟かせているまさにその時、膀胱癌。
変わり者であっても根は熱く、病魔と闘いながら一つの事に命削るほどのめり込む姿は、カッコよく高潔すらある。
そんな聖を体現するかのように、“生涯に一本の作品”と語るほどの意気込みで臨んだ松山ケンイチ。
20㎏増の役作りが話題だが、聖の内面を時に繊細に、時に鬼気迫るほどの演技に圧倒される。
同世代でも指折りの演技派の松ケンだが、彼のこんな熱演・名演が見たかった!
将棋に詳しくなくてもその名を知ってる羽生名人。演じるは、東出昌大。
松ケンの熱演に相乗されてか、あの東出が名演を見せているッ!
風貌も羽生名人に似せ、髪型や仕草や喋り方や駒の指し方も徹底研究。元々、将棋好きなんだとか。
寡黙な役柄なのが良かったのかもしれないけど(失礼!)、東出の演技に対してこれまで何度も辛口意見してきたが、ちょっと見る目変わった。
二人が対局を終え、酒を飲みながらぎこちなく語り合うシーン。
趣味も性格も真逆だが、同じ将棋という世界で同じ景色を見る二人の男の姿が印象に残る。
周りを固める豪華キャスト。
聖の周りの人々が聖に理解を示す善人が多い。
変わり者ながらも周りの人々に愛された聖。
そんな彼と周りの人々との関わりもスパイスとして味付けされている。
映画は聖の幼少時からではなく、すでに“西の怪童”と知られている彼が、東京行きを決心するシーンが起点となっている。
理由は、一度羽生に負け、彼に勝ち彼に近付く為であるが、聖自身、自分の命が短い事を悟っていたのではないか。
自分には時間が無い。
自分の生の証として、唯一爪痕を残せるもの。
何が何でも一番になる。
その為には何か行動を起こさなくてはいけない。
が、病魔は確実に進行している。
焦り、苛立ち…。
夢半ばになるかもしれないが、それでも夢見果てぬ飽くなき執念。
将棋に例えるなら、対局終盤の最期の一手。
自分ならどんな将棋を指すか。
演出は淡々、将棋に詳しくない自分が本作を見れるか不安もあったが、
村山聖の生きざまと言うか、内なる静かな気迫に感銘を受けた。
思ってた以上に良かった!