「なんとも有り難い映画」リメンバー・ミー 梅さんの映画レビュー(感想・評価)
なんとも有り難い映画
大人になれば数人は浮かぶ二度と会えない故人の顔。
その人達が、本当にこんなにも美しく生き生きとした場所にいてくれるなら……と思わずにはいられない映画だった。
そして、本当にこの映画のようにして
彼らが自分達に会いに来て見守っていてくれているのなら、そんな有り難いことはない。
そして実際無いとも言えない未知の事だけに、もしかしたらと想像し…
だとしたら…と、今の自分を俯瞰させてくれる内容だった。
頑なに音楽を避ける家族。
夢を持つ少年の視線を介して見る物語の中で、それは序盤、非常に閉鎖的で嫌な印象を受ける。
しかしラストに至るまでには、その滑稽な伝統が
傷つきつつも奮闘した妻と残されたCoCoの心情を思っての事だとわかってくる。
恐らくCoCoは母の気持ちを察して、自分も音楽を毛嫌いし避けてきたのだろう。
父の歌が好きだった幼少期に蓋をして。
そしてCoCoは母から音楽を遠ざけるために、自分と子供達にも言い聞かせ続けた筈である。
その子供達も最初は不服に思ったかも知れないが、恐らくは彼女の教えの中にある気持ちに気づき、それ汲んで音楽を避けて生きてきた。
主人公の少年は、悪いことではないにしろ自分の夢に夢中が故に
なぜ家族がこれほどまでに頑ななのか、その本心を察するに至らない。
そして家族も、何よりCoCo自身も
CoCoが蓋をした「父の歌が大好き」という本心に
CoCoの意識が閉じかけた今は気づけないでいる。
家族だからこそあるすれ違い。
思いやりのかけ違い。本音の出しそびれ。
その辺りの歯がゆさがとてもよく理解できた。
髪やグラスに注がれた液体等、細部まで驚くほどのリアリティーで描かれているのに
どこまでもファンタジーな美しい世界観。
その映像だけでも充分観る価値があったが
やはりラストシーンのリメンバーミー。
この場面。
歌声と、何よりも老いたCoCoの表情は忘れられないものとなった。
萎れた花がフワッと咲くように、幼少期
父の歌を聞いていた頃の顔に戻っていく様には、自然と涙が溢れた。
彼女の姿に、同じような状態にある身内を重ねてしまい
自分自身がこの少年のような心開く存在になれたらと思った。
そしていつかその身内も、既に亡くした故人達とともに
あのような美しい場所で……そう願いたくなった。
そしてその全員に改めて感謝もしたくなった。
生者の描く身勝手で都合の良い世界観ではあるが、それを救いに生きれる気がする
なんとも有り難い映画だ。