「フォースの深化に注目あれ」スター・ウォーズ 最後のジェダイ 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
フォースの深化に注目あれ
2015年に始まった新3部作の2作目は、期待を上回る面白さでした。
ルーカス時代の『スター・ウォーズ』しか認めないオールドファンもいますが、虚心坦懐で本作を振り返っていただければ、演出・脚本面で深化した面を否めないでしょう。
シリーズ最高傑作だといっても過言でない出来映えでした。
物語は、前作のラストシーンであるレイが、ルークと絶海の孤島で遭遇するところからはじまります。頑なに弟子はもう取らないと拒むルークを説き伏せて曲折の末に師弟関係を結ぶまで。そして最高指導者の信頼を失ったファースト・オーダーのカイロ・レンがある決断を下すまで。さらに銀河の独裁をもくろむファースト・オーダーの攻勢で、壊滅の危機にあるレジスタンスにあって、銀河の希望を繋いでいこうと奮闘するレイアの三つストーリーが同時進行します。
シリーズならではのド派手な空中戦アクションはもちろん健在で、見応えがありました。でも本作の真の見どころは、キャラクターの心理描写に注目して欲しいのです。
中でも、マーク・ハミルが挫折を味わった半生(『スターウォーズ』出演以降、映画でのキャリアは低迷)に重なるルークの設定が秀逸で、その挫折と再起に胸が熱くなりました。
レイやカイロなど新しいキャラクターにもそれぞれ見せ場があり、逃げ続けてきた人生を終わりにしたり、弱さを受け入れて一皮むけたり、葛藤の末に成長しています。レイの出生の秘密や両親は誰なのか。フォースでお互いの意識が同通しあうカイロとはどういう関係なのか、いくつかの謎は、寸止めで残されたままなので口惜しいところ(^^ゞそれが新3部作最後の完結編への期待を余計に高めてくれました。さらには、新たに発表された次の三部作につながる物語まで予感させる心憎い脚本であると思います。
フォースの思想性がルーカス時代と比べて軽薄になってしまったと嘆かれる人もいますが、本作ではシリーズ史上、最も最も強くフォースの奥義(仏教の深淵)が描かれた作品と言えるのではないでしょうか。
例えば、フォースの永遠性についてです。
ルークがカイロを暗黒面に落としてしまった懺悔から、自分を最後にフォースの伝承を断つ決意を固めて、フォースの聖典を破壊しようとしたとき、マスター・ヨーダが登場し、ルークをこう諫めるのです。
“お前は、ジェダイがフォースそのものと思い込んでいるが、大間違いじゃ”と。
ヨーダいわく、フォースとは銀河に遍満するいのちを育むエネルギーそのものであり、決して滅びるものではないと存在なのだというのです。だから、フォースはジェダイあってのものでなく、聖典で書かれた文字のなかにあるものでもないのだとも。だから自分が最後のジェダイとなっても、それでフォースが断たれると思うのは、ルークの傲慢である断罪したのです。
このヨーダ言葉に宗教者として感動しました。お題目や念仏やら、やたらお経の言葉を絶対視する伝統宗教の僧侶や新興宗教のしつこい布教者の人たちに聞かせたい台詞です。 本当の仏法とは経文にあるのでなく、ヨーダが語るように目を閉じ呼吸を整えて、自らの五感を超えて、大宇宙に遍満するフォースのエネルギーを観じることで掴めるものではないでしょうか。
ヨーダやルークの語るフォースとは、仏教の基本的な教えに非常に近いモノを観じます。早い話、フォースとは般若心経の経文で出てくる「不生不滅、不垢不浄、不増不減」と説明される『空』そのものなんですね。
またフォースの無限の可能性についても、新たな一面を垣間見せてくれました。本作ではフォースを使って、あらゆるモノが物質かできることが可能になることが描かれます。その能力で実際にはどういうことが起こるかはネタバレになるので明かせませんが、とにかくあっと驚く凄いことが起こります。「フォース」の力がオカルトの域に入っているといいますが、皆さんも天国に帰天したら、自らの想念の力を使って映画と同じことができるようになるわけですから、なにも珍しいことではありません。キリストだって、空中からパンを降らせたり、十字架にかけられた後、肉体をもって復活したわけですから、現実に起こり得ることなのです。
さらに本作では、ただ壊滅していくだけでなく、再生へが強く打ち出されていました。そういう点で、仏教の諸行無常感に似たものを観じました。諸行無常というと盛者必衰の理ばかり注目されがちですが、冬には必ず春があるように、滅する中に必ず次の生があるからこそ無常なのです。
本作ではレジステンスも、ジェダイも壊滅の危機に晒されます。でもラスト近くでさりげなく銀河の希望となることが暗示されるシーンでは、皆さんも深く安堵されることでしょう。
そしてラストシーンでは、輝く三部作の完結編に向けて、沈み逝く夕日が美しかったです。それもまた新たな歓喜のフィナーレに向けての伏線と言えるでしょう。
さて、最後に本作では映像表現も申し分ありませんでした。
ルークが隠れていた絶海の孤島は実在し、今回はたっぷり映像で使われますので、その美しさ、険しさには息をのみました。
また本作のイメージカラーである「赤」を基調とした色彩設計に目を奪われることでしょう。例えば、レジスタンスが立てこもる惑星、ファースト・オーダーの最高指導者の部屋など、気をつけていれば「赤」が印象的に使われているシーンが多いことに気がつかれるはずです。
ところでディズニー作品になったせいか、かわいい動物もたくさん出てくることが特筆モノです。中でもペンギンのようなポーグとチューバッカのやりとりに心が和みました。 今回から監督を務めるライアン・ジョンソンの持ち味なのか、絶望的な戦いの中にも、ユーモアがあふれていたことに注目して欲しいのです。まぁ、こんなに笑える「スター・ウォーズ」は初めてかもしれませんねぇ。ライアン監督の前作『LOOPER/ルーパー』も傑作なのでぜひご覧になってください。
子どもの頃、スターウォーズの大ファンだったライアン監督は、本作においてシリーズの過去の作品へのオマージュも忘れていません。あの人のマントがふわりと落ちるシーンなど、過去の名シーンをほうふつとさせる演出には喝采を送りたくなりました。加えて、あの人とあの人が背中合わせで戦ったり、あの人が待ってましたとばかりに現れたり。けれん味たっぷりの演出が痛快です!
ファースト・オーダーの旗艦の警備が甘過ぎるとか、突っ込みどころもあることでしょうけど、あなたが見たい「スター・ウォーズ」がきっとここにありますよ。2時間32分の長釈、心してご覧あれ(^^)