「本質論よりも先に方法論から入る手法には…」ダンケルク KENZO一級建築士事務所さんの映画レビュー(感想・評価)
本質論よりも先に方法論から入る手法には…
以前観た時は随分と戸惑った。
3つの異なる時間幅での構成の作品との
事前情報を知らないで観たので、
1W・1日・1時間という3つの時間軸を
交互に描く構成に、
正直なところ全く訳が分からなかった。
この奇をてらったような構成の狙いは
果たして何なのだろうか、
物語の本質に対して意味があり
成功しているものなのだろうか、
との観点でTV放映を機に改めて観てみた。
また、ネットの作品紹介では
“圧倒的な迫力とリアリティで描いた…”
とあったが、
私には真逆な印象の作品。
かつてのような大作映画の製作が難しい
時代であることは理解出来るが、
今どきのようなCG処理も無かったようで、
かつての「史上最大の作戦」をはじめとする
大作を懐かしく思い出すばかりで、
迫力感とリアリティ感は全く受けなかった。
また、冒頭から、
色々と気になる点ばかりが目に付き、
浜で大勢の待機している兵士のすぐ近くで
ドイツ軍に銃撃される状況なんか
あり得るのか?
爆撃機数以上の爆裂数なんて変では?
演出として時間の全く異なるシーンに
同じ音楽をまたいでかぶせる?
等々、冒頭から乗り切れない鑑賞になって
しまった。
また、この作品の主役は
“戦争そのもの”だったせいかもしれないが、
その手段としての人物のウエイトが分散
してしまった上に、それぞれが希薄なために、
各登場人物へ感情移入出来なかったのも、
この作品に乗れなかった原因かも知れない。
キネマ旬報ベストテンでは、
第1位「わたしは、ダニエル・ブレイク」
第6位「沈黙-サイレンス-」
第10位「ラ・ラ・ランド」が上位を占める中、
第4位の高評価なので、
世間的には成功しているのだろうが、
3つの異なる時間幅の構成も、
私には「1917 命をかけた伝令」と同じような、
やはり興行的な方法論的手法にしか
感じられなく、特殊な方法論に基づく本質性
は見えてこなかった。
例えば、ミュージカルという奇天烈な手法
を使って戦争の悲惨さを見事に描いた
名作「素晴らしき戦争」に比べ、
同じ冒険的な手法ながらも、
その“意味性”を感じられない。
本質論よりも先に手法論から入る
昨今の映画製作の手法には
少し違和感を感じるばかりであるが、
残念ながらこの作品もその一つの
象徴的な作品に感じるばかりだった。