「現実的戦場体験と映画的カタルシスの両立」ダンケルク きーとろさんの映画レビュー(感想・評価)
現実的戦場体験と映画的カタルシスの両立
ダンケルクからの撤退作戦を描いている作品ですが、状況説明が全くと言っていいほどされないので、事前に歴史的背景を予習しておいた方が入りやすいかと思います。
また、冒頭のテロップで「海岸の一週間」「海の一日」「空の一時間」と出ているように、それぞれで時間の流れる速さが異なることにも注意。海岸は長い時間を短く、空は短い時間を長く描いています。
ノーラン監督らしい時間軸のズレ。私はこの意味がわからないまま観てしまいました。それでも大きな問題はなかったですが、知った後だとこの3つが交差する点がより感動的に思えます。
本作は、登場人物の内面描写を静かで内に秘めたものにすることで、鑑賞者自身が戦場を体験しやすいようにしていると感じました。インタビューのないドキュメンタリーのような。空爆や魚雷だけでなく、水の怖さもよく伝わりました。映画館映えする作品ですね。
主人公にも活躍らしい活躍は見られず、戦争映画によくある戦友との友情なども薄く、兵士の間で名前を呼び合うことも数回。悪く言えば特に前半は盛り上がりに欠け、地味です。ですが戦場では個が許されないということの表現にも思えました。主人公もいわゆる勇者のような選ばれた主人公ではなく、ただ1人の兵士としての描写だったのだと思います。
セリフも少なく、演者からすれば表情や仕草に感情を込めるのは難しかったのではないかと思います。
私はテレビでの鑑賞でしたが、映像もさることながら音響もよく、ハンスジマーのbgmも緊迫感を引き立てていました。本作のフィルムの都合上、通常のスクリーンでは上下の40%がカットされてしまっていることもあり、IMAX鑑賞を勧める方が多いのも納得です。
序盤中盤では現実的な苦しい展開が続き、終盤に映画的カタルシスを詰めてありますね。苦しい展開が続く中でカタルシスを感じさせようとしているのは良かったのですが、中盤まで現実的だっただけに、少し娯楽映画っぽく、浮いているようにも思えました。しかしカタルシスの後に辛さやほろ苦さを残す描写を入れているので、バランスの取り方が上手いなと思いました。
空軍の2人が格好良かった。特にトムハーディ演じるファリアは英雄的に描かれていましたね。個人的にはコリンズ役のジャックロウデンがとても好み。イケメン版サイモンペッグとか言っている人がいて笑いました。
好きなシーンを並べておきます。
冒頭のビラが降り注ぐシーン。印象的で美しい始まり方でした。
ドーソンさんがスピットファイアをエンジン音で聞き分けるところと、それができる理由。
そして終盤の「何が見える?」からのファリアの活躍。
ラストの新聞記事、毛布おじさんとビールおじさん。そしてボルトン中佐。