「今作の2つの重大な問題点」ダンケルク pippo9さんの映画レビュー(感想・評価)
今作の2つの重大な問題点
かなり高評価されてる方が多いので、私が今作の重大な問題点と感じた部分を2つ指摘させて下さい。
1、戦争描写がぬるい
冒頭の銃撃戦や敵の戦闘機の襲来のシーンは迫力はあるものの、映画全体を通して血が出る場面や人体が損傷する場面が全く無いのがかなり気になりました。
「プライベート・ライアン」や「野火」、「ハクソー・リッジ」などを観た人からしたら、かなり戦争描写はぬるいと感じると思います。
戦争の恐怖から逃れることが出来るのかどうかがストーリーの原動力となっている今作では、映画の冒頭で観客に戦争の恐怖を死ぬほど感じさせる必要があったはずなのに、それに失敗していると感じます。
今作で怖いと感じるのは、銃撃や爆撃のあくまで「音」や、船内に入ってくる「水」であって、
銃撃や爆撃の「音」や、海水で溺れるかどうかの恐怖は描いていても、戦争によるバイオレンスの恐怖は全く描けておらず、あくまで戦争っぽい雰囲気だけな気がします。
ノーランはCGを使わないことを信条にしているようですが、「CGを使わない=リアルな戦争描写」とはならない、と感じます。
2、複数の視点のせいで緊張感が持続しない
ダンケルクの海岸、民間の船、戦闘機のパイロットの3つの視点で今作は構成されていますが、この3つの視点はそれぞれ時間の進む早さも緊張感も全てバラバラなストーリーです。
問題なのは、この3つの視点が入れ替わるたびに、前の場面で続いていた緊張感がぶつ切りになってしまう点です。
兵隊たちが海岸で今か今かと船を待っているところに敵の戦闘機がやってきて何十万人もの命が危険にさらされている状況と、挙動不審なパイロットが船内にいる状況とでは全く緊張感が違うのに、それを交互に見せているせいで、「キリアン・マーフィーはどうでもいいから爆撃の場面をもっと見せろよ!」と思ってしまいました。
せっかく、映画全編で流れている時計の針の音が緊張感を煽っているのに、複数の視点のせいでそれが台無しになってしまっている印象です。
作品全体として、戦争の緊迫感を描きたかったのか、ダンケルクでの英雄譚を描きたかったのか、R指定の無い戦争映画にしたかったのか、それでもやっぱり難しそうな映画にしたかったのか、やりたいことが全方向に散らばってどれも薄まってしまっている印象でした。
ただ、確かにCG無しの迫力と、ハンス・ジマーの重低音による圧力という点では素晴らしかったので、IMAXで鑑賞しておけて良かったです。ノーランの次回作はやりたいことを明確に絞った作品を観てみたいです。
ノーランは「ダークナイト」で神格化されてしまったけど、正直そこまで凄い監督というわけでは無い気はします。