劇場公開日 2018年1月19日

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「バカバカしさを楽しめた人の勝ち」ジオストーム アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5バカバカしさを楽しめた人の勝ち

2018年2月5日
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鑑賞方法:映画館

2D 字幕版を鑑賞。このディーン・デヴリンという監督は俳優出身で,その後脚本や製作に転じてローランド・エメリッヒ監督の作品に多く携わった人で,今作が初監督だという話である。エメリッヒ監督といえば,インデペンデンス・デイとその続編やハリウッド版ゴジラの1作目など,いかにもアメリカ人が喜びそうなド派手だが中身の薄い典型的なハリウッド映画を立て続けに送り出している人で,その後継というにふさわしく,ド派手さといい加減さをきちんと継承した作品であった。

2019 年に始まる地球の異常気象を制御するために,地球を網目状に覆うように構築された気象制御衛星網という発想がそもそもブッ飛んでいる。台風の発生などに対してそれを打ち消すようなエネルギーを衛星から与えて消滅させることができるという話である。台風一つ分のエネルギーは簡単に算出できないが,一説によると 10^18 ジュールほどという話がある。広島型原爆1発のエネルギーが 5 × 10^14 ジュールというから,2,000 発分に相当する。世界中で同時に発生する台風の数はその何倍にもなり,一年で通算すれば何百倍になるかも知れないのだから,それだけのエネルギーを衛星に搭載するのはまず絶対に不可能である。

さらに,仮にそれができたとして,台風が発生していない地域にそのエネルギーを投入すれば,台風に匹敵する被害を与えられることになってしまう訳で,地球を何万発分もの核エネルギーで囲んだのと同じ状態になる。当然,これを国家間の脅威として使用することも可能な訳で,こんなものが自国の上に設置されるのを容認する国がある訳がない。そもそも,赤道上でもない位置に静止衛星を置くことなどできないのだから,常に軌道修正を行いながら飛んでいるなら更にエネルギー消費が増すことになる。

などと真面目に文句を言うのは無駄なのかも知れない。何しろ宇宙空間でブースターなどを作動させたらちゃんとその音が聞こえるという演出である。物理がどうこうというのはどうでもいいと思っているに違いない。それにしても,動いている人が一瞬で凍りつくなどということは,たとえ液体窒素を浴びせられてもあり得ないことである。また,車は車体が金属でできているので,いくら雷に打たれても乗員やエンジンには何の損傷も与えられないので,著しく間抜けなシーンが終盤で展開されたのにも何だかなと思った。再起動すればウィルスから解放されるなんてことなら誰も苦労しないのにとも思った。

要するに,科学的なリアリティなどと言い出したら全く楽しめない作品ということで,頭を空っぽにして CG を楽しむだけにするのが一番良い見方なのだろうという気がするが,人間ドラマの方も薄っぺらくて一体どこを見ればいいのかと戸惑いを覚えるばかりであった。どこかで見たような作風だと思ったら,20 年前に見た「アルマゲドン」と雰囲気がよく似ていることに気がついた。科学的な考証がいい加減なところもソックリである。オチがあれほど酷くなかったのだけは,今作の方がマシだと思えた。

音楽だけはやたら良かったと思うが,配役から問題があると思った。主人公はどう見ても頭脳で勝負するタイプには見えなかったし,敵もまた力技で押してくるだけでワンパターンだった。犯人の動機付けも取ってつけたようだったし,誰にも切実さが不足しているように思えた。ただ表面的にド派手なシーンを集めるだけで良ければきっと満足できるのかも知れないが,私には非常に不満だった。
(映像5+脚本2+役者3+音楽5+演出3)×4= 72 点。

アラ古希