ラスト・タンゴのレビュー・感想・評価
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タンゴで人生を生きた女性
姿勢は良いものの、皺深い年老いた顔にくっきりと女の化粧を乗せた老婆を追うのか。これは見るのが辛いドキュメンタリーなんだろうな、嫌だな…と躊躇したが、タンゴに引かれて見た。
冒頭ではマリアは老残の姿と見えたが、インタビュアーや若い理解者たち(ダンサー)にタンゴを語る瞳の煌めきで、すぐに80歳の今も現役のタンゴダンサーなのだと理解した。
またマリアの話を聞く、再現フィルムで踊る若いダンサーたちの真っ直ぐな視線も美しいものだった。大先輩の大物ダンサーへの尊敬と憧れ、理解し切れない過去を掴もうとするもがき、そして多分(自分は彼女を超える・超えられないかもしれない・超えたい)という揺らぎもその眼差しの底に。
「ブエノスアイレス」のメイキング映像の中で、マリアと同じように歳を重ねたでっぷりしたお婆さんが「タンゴは人生そのもの」と語っていた記憶があるのだけれど、まさに。
強い光があるからこそ孤独がくっきりと浮き上がる。二人で踊るからたった独りの凄惨が見える。若さ美しさを失いながら生き抜いた後やっと見える人生の輝きを捉えた、アルゼンチンタンゴの凄みを感じさせてくれる素晴らしいドキュメントだった。
深くて濃厚なアルゼンチンタンゴ
アルゼンチンの伝説的タンゴダンサー、長年ペアを組んでいたマリアとフアンの若いときから80代までのお話。出会ってからペアを組んだ若い頃の二人、中年になってからの二人をそれぞれの年齢に合ったダンサーが演じる。大道具も衣装も感情も二人、とりわけマリアに焦点を当てている。二人の役を演じるダンサー達はマリアから色んな話を聞く。どんな家庭に生まれたか、どんな遊びを子どもの頃にしていたか、どこでフアンに出会ったか?その時彼女は14才、彼は17才。マリアの話に聞き入り質問するダンサー達の楽しくも真剣な顔が若々しく好感がもてた。
二人の出会い、愛のこもった関係、怒り、二人の間が冷たくなってからのダンス、パートナーの解消が時系列に沿ってダンサー達が再現する。今も残っている当時の二人のダンスシーン映像も挟まり、それをマリアと共にダンサー達が一緒に見る場面は良かった。こういうドキュメンタリーの作り方はとてもいい。
80才のマリアの姿勢の良さ、脚と足首の細さ、ベリーショートが似合う可愛い顔立ち。タンゴが命、でも子どもを生みたかった当時の気持ちとフアンの対応に関しての話になると意地でも口をつぐむマリアに単純ではない感情に襲われた。フアンは・・・。83才でも現役で自分の娘をパートナーにして踊っているシーンが映った。マリアとのダンスとは残念ながら比較にならない。それを娘も十分わかっているのが切ない。
タンゴは音楽がまず好きだ。ダンスとしては社交ダンスのように人に見せるのがメインではないことに親近感を覚える。パートナーとのコミュニケーションが一番のダンス。
おまけ
再度鑑賞。ダンスをよく見て、言葉をよく聞いて、音楽をよく聞いて、踊る彼女の顔と脚をよく見た。強くてとてもいい映画だとわかった。(2025.7.28.)
アルゼンチンタンゴ
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