「己を縛るものは、己だけが信じる思想だったりする。」孤独のススメ 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
己を縛るものは、己だけが信じる思想だったりする。
何の説明もなく物語は進む。偶然出会った詐欺師を家に招き入れたことから、なぜかその男の世話を始めてしまい、いつしか不可欠な存在のような気がしてしまう。これが、孤独なおじいさんが身寄りのない小さな少年を家に招くような物語だったら、ただのハートウォーミング・ムービーで終わっていただろうが、この映画がなんともユニークなのは、どちらもオジサンであるところだ。オジサンがオジサンと出会い、オジサンがオジサンにサッカーを教え、テーブルマナーを教え、共同生活を送るのだ。その姿は、確かにちょっと滑稽なのだけれど、滑稽であると同時に、どこか切なくて愛らしい部分がある。今はもういないはずの妻と子供と3人で撮った写真をいつまでも壁に飾っている男のやるせなさと孤独感が、そう感じさせるのかも。
映画の根底には、もちろん宗教観というものの存在感が脈々と流れている。日曜には欠かさず教会へ通うほどの信仰心熱い主人公。信仰心というのは素晴らしいもので、美しいことではあるのだけれど、しかし、ともすると盲信にすり替わってしまうこともある。夕食が18時でなくてもいい。朝食は7時半でなくてもいい。しかし主人公は毎日それを守っていた。日曜は教会へ通わなければならない。同性愛は考えられない。主人公はなぜかそう信じ込んでいた。つまりは「こうあるべき」と勝手に決めつけた「思い込み」からの解放がこの映画の主題であり、それが、名も知らぬ男に対し愛着を感じ始めていることに象徴されているのだと思った。根拠のない思い込みや決めつけから自己を解放し、同時に他者を赦すことの崇高さを一番に訴えるいい映画だった。家から追い出した息子が「This is My Life」を熱唱するシーンは、ストーレート過ぎて気恥ずかしくもあったけれど、やっぱり胸が熱くなった。
このテーマを、こんな風にコミカルでユニークで可笑しみのあるストーリーで描いたオランダ映画のユーモアが、とても好きだ。