「ダンスの映像美に引き込まれる、プレルジョカージュの自信」ポリーナ、私を踊る Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
ダンスの映像美に引き込まれる、プレルジョカージュの自信
ダンスを通して、少女が大人に成長する過程を描いたフランス映画である。もとよりダンス芸術を語れる人間ではないけれど、そんな自分でも、ダンスによる映像美に、これほど引き込まれる満足度の高い作品はなかなかない。
幼少からクラッシックバレエの英才教育を受け、高額な授業料もその才能を信じる両親の苦労によって支えられたポリーナは、最難関のボリショイのオーディションを突破する。年頃になった彼女は、付き合っていたフランス人の彼氏の影響と、そのとき出逢ったコンテンポラリーダンスの舞台の衝撃から、新しいダンス表現へ挑戦のため、恩師と両親の期待を裏切り、ひとり旅立つ。
単純なストーリーはシロウトに分かりやすく、余計なセリフや説明は徹底的に排除されている。それは、映画をダンスシーンだけで表現しようとしているように見えるし、多くで披露される、ダンスシーンの振り付けへの自信の裏返しなのだ。
と思ったら、共同監督のアンジュラン・プレルジョカージュってメチャクチャ凄い人なのね(シロウトなもので…)。世界的に有名な振付師で、パリ・オペラ座バレエにも作品を提供しているほか、自身もクラシックバレエダンサー出身でありながら、多方面のアーティストとコラボをしている。
つまりプレルジョカージュのダンス人生そのものを、少女ポリーナに投影している部分も多い。"美しいだけではダメである。踊りに自分自身を、人生を表現しなければならない"と語られる。主人公のポリーナ役には、映画さながらのオーディション競争で、新人のアナスタシア・シェフツォワが大抜擢された。
映画の舞台も、プレルジョカージュの活動拠点である南仏のエクス=アン=プロヴァンスと、ボリショイ劇場のあるモスクワ、そして新興ダンスのクロスオーバーが起きているベルギーのアントワープという、欧州ダンスの重点都市をつなげていく。
コンテンポラリーダンスの振付師役で、名女優ジュリエット・ビノシュがダンスを見せるが、これがまた素晴らしい。演技を越えて、プロのダンサーみたいだ。
エンディングに向けてのコンテンポラリーダンスの熱量がもの凄い。とにかく吸い込まれるように魅せられる。
そしてダンスシーンは、一発勝負のオーディションから、そのまま本番舞台(おそらく成功を意味する)へ流れ込み、恩師に無言で感謝を伝える再会を彷彿とさせるカットで締めくくる。うーんステキ。
(2017/10/31/ヒューマントラストシネマ有楽町/シネスコ/字幕:古田由紀子)