劇場公開日 2016年12月23日

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「民間人が巻き込まれぬ戦争なんてない。」アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場 とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0民間人が巻き込まれぬ戦争なんてない。

2022年2月27日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

怖い

知的

難しい

あなたがそれを言うな!

鑑賞しなおせば、もっと早い段階で介入ポイントがあった。でも、それこそ、”最も安全な場”からの意見。後出しじゃんけんなら、何でも言える。

軍事×政治×法。
 たった数人の捕獲に、政府の承認が必要なことに驚き。
 他国での活動だからか。それが”警察”としての活動ではなく、”軍部”が主導しているからなのか。
 確かに、他国への攻撃は、それが世界的な戦争になる可能性があるからなのだろう。軍部の暴走を阻止するには、良いシステムだ。

けれど、命の重み。
 起こりえるであろう惨撃で失われる多数の命と、今失われる可能性が極めて高い一人の命の重みに対して、様々な意見が取り交わされる。
 だが、それぞれが感じる命の重みは同じなのだろうか。

推定の被害者と、目の前の命に悩みながらも、自分の選挙や、マスコミの追求・批判とを、天秤にかける政治家と法律家。テロすらプロパガンダに利用しようとする政務官。

奨学金返済の代わりに、バイトのような期間限定でこの仕事に就いている兵士。

職業軍人として生涯を軍人として生きてきた中将と大佐。
 キャリア組として、現場に出ることはなかったか、どのような現場を経て今の地位に着いたのかは語られていないが、今までのキャリアの中で、冒頭に協力者の死が出てくるように、途中で現地のスタップが命を狙われるように、自身も命を削る思いをしたかもしれない。部下を失くしたかもしれない。そんなことも含めての”任務”。テロ被害者や被害者の家族にも、実際に会っている人々。『ハートロッカー』が頭をよぎる。
 ここまで来るのに、どれほどの危険を伴う任務を積み重ね、犠牲を払ってきたのか。
 政務官が希望することを叶えるために、どれほどの犠牲が必要なのか。
 これを逃せば、どんな阿鼻叫喚が広がるのか。
 そしてまた、一からのやり直し。

同時に一人一人の思いの中にいる少女。一人の人間としての思い。
 土産を用意した孫と、フラフープで遊ぶ娘。家族や、親しい知人…。

有名な「トロッコ問題」。
 この命題に、犠牲者になりうるメンバーの中に、あなたの家族がいたら…。憎い知人がいたら…。

判断の基準は、皆同じようでいて、同じではない。
 どんなに、ドローンからのリアルな映像を共有できても、そこから喚起されるものは同じものではない。
 だからこそ、議論が必要なのだが、お互い、相手の考えを尊重しないままに、自分の立場・意見だけが主張される議論。
 ”プロ”としての経験がないがしろにされる世界。
 何のために、何が必要なのかが、混乱する世界。

45%。被害が及ぶ範囲を数値化して検討する。
自爆テロが行われた場合の被害者も80人以上と推定される。
では、自爆テロが行われる可能性は?行われない可能性は?
すべてを数値化できるわけではない。
可能性が1%以下であっても、行われた場合はその時点で100%となる。
被害が及ぶ範囲とて同じだ。安全圏にいても、何がとんでくるかはわからない。
数字のマジック。
だのに、その数値が幅を利かす。

人権。
 犯罪を犯した人にも、公正な裁判を受ける権利がある。至極まっとうな意見だ。
 当たり前のことが、当たり前として通じなくなる。それが戦争という状態なのだ。

「少数の命を犠牲にしても多数の命を守ることを考えるのが、政治家。少数の命のために働くのが、宗教家」と塩野七生さんがおっしゃった世界は遠くなった。
 これが正しいかは議論のすべきだが、こういう腹くくりができる人もいなくなった。

だからと言って、人の命を奪う行為は避けたい私もいる。
 他のレビューサイトで指摘されている、原爆投下の問題。戦争終結を早まるため(とUSAは主張するが)とはいえ、投下が”仕方がない”行為だったとは絶対に認めたくない。
 また、これも、他の方のレビューで気が付かされたが、被害者の家族がテロリストになる可能性もある。憎しみの連鎖。

判断は簡単ではない。個人の暴走がないように、判断基準の遵守は求められるが、マニュアルで対応できるようなものではない。

この映画を観て、テロに身を投じる人をなくすためにできることを探そうと思う私は、軍人にも政治家にも向いていないのだなとわかった。
 『パラダイス ナウ』を見返したくなった。

ラスト、中将が部下におもちゃを渡され「ああ」と受け取って帰る後ろ姿。
その直前に、政務官へ強烈な一言を発して、会議室を後にした後の姿。
己の仕事を全うした、起こるべき悲劇を阻止した、国民をテロから守った、軍人としてのプライド。そのもう一方での感情。
後ろ姿で演技ができるリックマン氏。言葉がでない。

☆  ☆  ☆  ☆  ☆
このレビューを書いている2022年2月27日、ロシアがウクライナに侵攻している。
 何故?どうして?大義名分すら見えてこない。完全に、ロシアからの一方的なわがままにしか見えない。(NATO云々とかいう話もあったようだが、それでなんでウクライナ侵攻?)
 子どもを含む、民間人の犠牲者も出ていると聞く。死には至らなくても、日常の破壊。
 プーチンは、”戦争の代償”をわかっているのか。判断する力が無くなっているのか。
 日本にいるロシア国籍を持つ方をはじめ、関係している人は「NO」との叫び声をあげているが、ロシアの方々は何を思い、どうしているのか。支持しているのか、容認しているのか、昔の”東側”のように「NO」を言えない状況なのか?
 NATOは何している?ということを言うニュースも見たが、これで他国が軍事介入したら、第3次大戦になだれ込む可能性だってある。『博士の異常な愛情~』の世界に入っていくのか?

戦争。どんなに精密な機器が開発されようと、それが、人々が生活する場で行われる限り、民間人が巻き込まれる可能性は0にはならない。
 サバゲーのように、戦争やりたい人だけが集まって、戦争すればいいのに。なんて夢のようなことを考えてしまった。

とみいじょん
CBさんのコメント
2022年2月28日

> 2022年2月27日、ロシアがウクライナに侵攻している
リアルな戦争というか侵略に対する無力感に苛まれます。

CB