「特異な自然を織り込みたいがための思惑が上擦ってしまったように思えて…」ミモザの島に消えた母 KENZO一級建築士事務所さんの映画レビュー(感想・評価)
特異な自然を織り込みたいがための思惑が上擦ってしまったように思えて…
「サラの鍵」に繰り返し号泣した経験から、
同じ原作者の作品として期待して観たが、
そうとは思えない位、深みの無い話だった。
義理の娘の不倫とも言える同性愛に対する
祖母の強引な妨害は、
時代的には有り得た話のように思えるし、
父親と祖母が子供達に隠し通したいと思う
母親の秘密は、
兄妹が主張するような嘘ではない。
だから、妻の死そのものには
直接的に責任の無い祖母や父親を、
場所柄もわきまえず追求する兄妹に
共感は得られなかったし、
思慮浅い人間性にしか感じられなかった。
そもそもが兄が常に苛立っているのは、
母の死因に対する疑念と言うよりも、
仕事の上でも私生活でも
全て上手くいっていないため
のようにしか感じられない描写だ。
想像するに、潮の満ち欠けで
現れたり消えたりする島への特異な道路を
物語の背景に据えたいがための
強引なストーリー展開に無理があった
ような気がしてしまう。
私は「サラの鍵」の鑑賞後のレビューとして
“全ての希望は真実の上にあるべき”との
鑑賞感を記載させていただいたが、
この作品でも、あたかも同じテーマ性を
想像させるような
妹による祖母への追悼スピーチがあった。
しかし、この作品での母親の秘密は、
希望に繋がるための
必ずしも明らかにすべき真実とは思えない。
真実を知ることが希望に繋がるためには、
この作品の兄妹のように
己の納得のレベルに留まるのではなく、
「サラの鍵」の女性ジャーナリストと
サラの孫の男性ように、
真実を能動的に受け止めての、
人間の成長への希望が見えないのでは
感動することは出来ない。
同じ原作者の作品の映画化、
「ミモザ…」の方の原作は読んでいない中での
比較で恐縮ですが、
2つの映画の出来不出来の印象は
演出側にあるのでは無く、
あくまでも“原作の質そのもの差”のように
感じるばかりだった。