「他の戦争映画と一線を画すテーマ性。罪悪感の行方に考える。」ある戦争 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
他の戦争映画と一線を画すテーマ性。罪悪感の行方に考える。
戦争のリアル。派手なアクション映画で観る「戦争」ではないし、反戦のメッセージを掲げた戦争ドラマで観る「戦争」とも違う。職業として戦地に赴く兵士たちと、彼の帰りを待ちながら日常を送る家族たちのそれぞれの姿が、ドキュメンタリーさながらのリアリティで描かれていく。戦地で日常を生きる男たちと、日常の中で戦地を思う家族たち。銃声の響かない時の兵士たちの様子など、戦争のリアルを感じるようで(まぁ実際、戦争を一度も経験していない私に、リアルも嘘も分からないのだけれど)思わず見入った。
しかしこの映画が本題に入るのは後半部分だ。主人公が負傷した仲間を救うために下した一つの決断から、子どもを含む民間人11人の命を奪った嫌疑をかけられ、裁判を受けることになる。かと言って映画が法廷劇に様変わりするわけではない。物語は、主人公の罪の意識を問い質すように進む。本当のことを話してしまえば、まだ生まれたばかりの我が子は父親を知らずに育つことになる。彼はただ仲間を助けたかっただけだ。場合によっては彼の嘘のために命が救われ、彼はヒーローだったかもしれない。ただ今回は、民間人を巻き添えにしてしまった。ふと思い出したのは、東日本大震災の時の避難誘導が的確でなかったと、訴訟を起こした遺族の話。結果から逆算すればそれが間違ったことだと分かっても、その瞬間には何が最善策であるか分からない状況下で(この映画の場合は訓練を受けたプロフェッショナルであることが悩ましいが)、自分とそして他人の人生を変える選択をする一瞬が来るという怖さ。これで主人公が法に裁かれ罰を受けることになれば、彼にとってはある意味で気が楽だっただろう。しかしこの映画は違う筋書きを辿る。だからこそ、余計に主人公は重い十字架を背負う。亡くなった民間人の中には子どももいた。無罪を勝ち取った男は静かに我が子を抱きしめる。何も知らずに見れば幸せそうな親子の姿。しかし彼にとってはあまりにも胸の痛い抱擁。ただの戦争映画とは違うアプローチで、一味違うメッセージを投げかける良作だった。