「そしてビルが残る」ハイ・ライズ 小二郎さんの映画レビュー(感想・評価)
そしてビルが残る
タワーマンションを舞台にした寓話。閉塞した共同体は澱み腐敗していく。
マンションのルールを維持しようとする富裕層(保守派)。
マンションのルールに反抗する下位層(リベラル)。
両者の抗争が始まる。
下位層のワイルダーは、富裕層やビルの設計者を倒せば、システムは変わると思っている。
しかしビルの設計者(自分がこの世界を作り君臨していると思っている)すらも、システムの一部でしかなく代替可能。倒したところで何も変わらない。新たなグループ(女性グループ)にワイルダーも倒されてしまう。
結局抗争で皆潰れ、残ったのはマンションビルだけ。
ビルにとっては、腐敗や抗争すらも人を入れ替えるためのカンフル剤でしかない。マンションビルは二棟目、三棟目と建ち続け新たな入居者を迎えるだろうという暗示で映画は終わる。
ビル=システム(資本主義とかいろいろ)の象徴なんだろうけども。
格差対立を描いた映画というよりは、それらすべてを飲み込み続いていくシステムを描いた映画なんだろうなと思う。人は朽ちてもシステムは残る。
主人公のラングは、ビル=システムに同化しようとする(ビルと同じペンキを自分に塗ったりする)。そして最後まで生き残る。
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システムへの疑義って、今さらな感じはするんだよな。自分で書いてても厨二臭くて恥ずかしいというか。
だけども敢えて今、青臭い話を真っ向から撮ったその蛮勇、嫌いじゃない。むしろ好き。面白い映画だったなと思う。
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個人的に惜しかったなと感じたのは。
映像が説明的すぎちゃう気が。保守=ビクトリア朝の格好、リベラル=60年代ヒッピー風とか。
もうちょっとネットリとした「腐敗の官能」を感じさせてくれたらと思った。『クラッシュ(1996)』みたいな。
ビルの硬質な色気はあったと思う(建物の遠景がカッコいい)。