トランボ ハリウッドに最も嫌われた男のレビュー・感想・評価
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ナショナリズムを糾弾する映画
アメリカはナショナリズムの精神構造を代表とする同調圧力の非常に強い国で、それは今も昔も変わらない。アメリカ人のナショナリズムこそ、世界を駄目にしてきた元凶なのだが、誰もそのことに触れない。ナショナリズムを否定するとアメリカでは生きていけなくなるからだ。アメリカだけではない、たいていの国で生きていけなくなる。
国家を第一義とするナショナリズムは、人間の自由と尊厳を大切にするヒューマニズムと正反対の思想である。ヒューマニズムの主張は尤もなのだが、ナショナリストからはエゴイストあるいはコミュニストと非難される。ヒューマニズムの主張は穏やかなのに対し、ナショナリズムの主張は攻撃的で高圧的で、時として暴力的である。そして大抵の場合国家権力を掌握しているのはナショナリストである。議論ではヒューマニストに敵わないが、権力を背景にした暴力で圧倒する。ヒューマニストは黙りこむことになる。
民衆はというと、世界を立体的に考えることができない多くの人々は、ヒューマニズムを理解することができず、ナショナリストの大義名分の圧力に抗うことができない。むしろナショナリズムの一員として全体に同調し、高揚する。肩を組んで「America the Beautiful」なんかを歌うのが幸せなのだ。
トランボはヒューマニストである。したがって、当然ながら反戦思想の持ち主だ。第二次大戦前後のアメリカでは反戦思想の政党はアメリカ共産党だけだったから、彼は共産党に入党する。そこにソ連との冷戦がはじまり、レッテル張りをするのが得意なナショナリストの格好の標的となってしまう。マッカーシーの赤狩りの餌食となったのだ。そしてトランボたちを攻撃している中にロナルド・レーガンやジョン・ウェインといった有名俳優もいたことが少なからずショックだった。
この映画は、酷い目に遭いながら、不屈の精神力で脚本を書き続けるトランボと彼を支える家族たちの苦闘の映画である。
トランボの生き方は見事だったが、映画はそれだけではなく、ナショナリズムの恐ろしさも端的に伝えている。
風呂場で映画の脚本
エンタテインメント色たっぷりの社会派映画
米ソ冷戦がはじまった1940年代後半から、米国では共産主義的思想の持ち主を徹底的に弾圧した。
ハリウッドとて例外ではなかった。
いや、大衆への影響が大きいことから、その弾圧はすさまじかった。
ダルトン・トランボもそのひとり。
いや、ハリウッドの共産主義の中心人物と目され、徹底的に排除された。
しかし、トランボは変名・偽名を使い、仲間とともに次々と脚本を書き続けていく・・・
という事実に基づいた映画で、とにかく面白い。
興味深い、ではなく、面白いのである。
その面白さの中心は、トランボそのひとにある。
とにかく、信念の人である。
自分を曲げない。
自分にできることは書き続けること。
ただし、主義主張、メッセージを重視するのではなく、量だ。
その量の中から、「質」が現れる。
「質」は、作品の質であると同時に、そのひとの内面の質だ。
「ひと」が認められることで、主義主張を通そうというのだ。
まぁ、やりすぎて、ワーカホリック状態になり、家族との危機も迎えるのだけれど。
この映画では、トランボを演じるブライアン・クランストンも素晴らしいが、妻役のダイアン・レインが素晴らしい。
いつもは控えめだけれども、家族の危機に際しては、言うべきことは夫に言う。
このシーンが良かった。
実話なので、エドワード・G・ロビンソン、ジョン・ウェイン、カーク・ダグラス、サム・ウッド、オットー・プレミンジャーなど、ハリリウッドの面々が登場するが、なかでも、カーク・ダグラスが酷似。
さらに、映画コラムニストのヘッダ・ホッパー役のヘレン・ミレンが憎々しくて、これまた良い。
社会派テーマをエンタテインメント色たっぷりに仕上げるのは、かつてハリウッドが得意としていたものだが、これは久しぶりにそういった類の秀作佳作である。
数々のSNS炎上が、この出来事の再演で無いと良いが・・・
第2次世界大戦終結後にアメリカで起きた赤狩りの対象となり、映画界から追放されてしまったダルトン・トランボの伝記映画。
いやぁ、あの『ローマの休日』にこう言う隠された逸話があるとは知りませんでした。脚本には、「あこの作品は、あの人っぽいよね」と言う癖が有るような気がするんですが、専門家ばかりのアカデミー会員は、見抜けなかったんですかね?あるいは、この時のアカデミー賞受賞は、陰ながらにトランボを応援していたアカデミー会員の影の努力の賜物なんでしょうか?
『ローマの休日』以外にも、大ヒット映画の脚本に関わっていたトランボは、一種の天才ですね。見た事はありませんが、『スパルタカス』とか『栄光への脱出』とか、いやぁ、すごい作品ばかり。
見ていて思ったのが、自由に考えていることを主張していくことの大切さと、それを守ることの難しさ。いまSNSでは、誤った正義感・自己の価値観の押し付けによる過剰なバッシングが多いですが、この当時の赤狩りもそれに類するというか・・・、時間軸的には逆ですね。いまの過剰なバッシング傾向は、当時の誤った赤狩りに通じるものがあると強く感じました。
ちょっと意外に感じたのが、ヘレン・ミレンが、正にbastardとでも言われるべき人間を演じていたところ。いやぁ、本当に悪くて嫌な奴でしたね(笑)。あんな役を演じられるのも、ヘレン・ミレンが一流の女優であるからなんでしょうが。
それにしても、途中までは「トランボの作品は最高だけど、トランボ本人は人間としては最低だ」と思っていたんですが、奥さんの“激怒”により改心した所も中々凄いと思います。そう言うところがないと、こう言うヒット作品ばかり書き続けられないんでしょうね。
もう一度観に行きたい!!
頑張れトランボ家
とても魅力的な映画
ローマの休日を偽名で書いた赤狩りで追放されていた、脚本家の実話。
この作品がハリウッドで作られる事が、アメリカの希望なのかな?
朝鮮戦争、ベトナム戦争、冷戦
共産主義と戦う事に大義をかけ、国民を動員する必要があったアメリカの赤狩り。
日本でもレッドパージとして、ひどい事になっていたのですが、あそれを正面から扱い、しかも娯楽的にも成功している作品は寡聞にして知りません。
脚本、演技、音楽、大勢の俳優さん達の熱意、アメリカの良心を感じました。
トランボの闘いは実力でブラックリストを無にするという、ある意味彼でないとできない闘いだった。しかし、彼は赤狩りを何も生み出さず、傷つけあっただけの時代とふりかえる。和解を信じている。これが真の勝者なのかもしれない。
素晴らしい作品
傑作です。
タイプライターは剣よりも強し!
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