「偏屈にまっすぐに生きた男の話。」トランボ ハリウッドに最も嫌われた男 だいずさんの映画レビュー(感想・評価)
偏屈にまっすぐに生きた男の話。
5月に公開していた「ヘイル、シーザー!」と時代が重なります。「ヘイル、シーザー!」ではよく分からなかった戦後ハリウッドと赤狩りについて、すこし理解を深める事ができました。また、そういったことを除いても、単純に良作だと思います。
共産党員だったトランボさんは、赤狩りが激化する映画業界で奮闘していましたが、聴聞会に引っ張り出され、証言を拒否したところ、議会侮辱罪で投獄されます。服役後に、再起を図るも、難しい。なりふり構わず、偽名で、B級映画の脚本・手直しを破格で山ほど引き受けて、糊口を凌ぎます。妻・娘たちも仕事の手伝いに借りだし、家族のための仕事が、仕事のために家族を振り回す、見事な本末転倒となり、妻・長女から反発を受け、トランボさんは態度を改めます。その内、黒い牡牛(知らない映画です)とローマの休日にて偽名でアカデミー賞を受賞します。
その後、長女に言われてローマの休日は自分が書いたっていいなよと進言されたり、変わり者のスター俳優、監督から脚本書け書け、本名でのせちゃると後押し(ごり押し?)をうけ、スパルタカスと栄光への脱出を書き、映画界に表立って復帰していったというお話です。
ラストに、1970年ごろだったかに、過去を振り返ったスピーチをする場面があり、そのスピーチがすばらしかったです。裏切らざるを得なかった者も、戦いの中で命を落とした者も、みんなつらかったよね的内容(酷い要約ですみません・・・)でグッと来ました。
劇中ではローマの休日は俺が書いたもんね!とテレビのインタビューでゆってた気がしますが、wiki調べによると、ローマの休日を書いたのがトランボだと分かったのは彼の死後だったようです。
家族の物語としても素敵でした。妻が、正に賢妻って感じで、基本は夫を信じるだけなんだけど、本末転倒の生活で大事なものを見失った夫への抗議は的確でした。そして、エルファニング演じる聡明な長女がまたよい。父の娘ですよね・・・。ちゃんと謝ることのできる男と、そんな男を愛する女でしたよ。家族みんなでアカデミー賞の授賞式みて、やったーパパナイス!ってハイタッチする感じもほのぼのいい感じです。
ヘレンミレンが気取った帽子の反共コラムニストを演じており、いい味出していました。コミュニスト迫害のために、映画会社の偉い人が必死に隠していたユダヤ人であることを持ち出して脅したりしていました。彼らを首にしなければばらすぞというやつです。そういえば、映画産業には多くのユダヤ人が関わってきたと聞いたことがあると思いました。そのかかわりはおおっぴらなものではなく、名前を隠す必要があったのだなと想像しました。
また、裏切ったコミュニスト仲間の俳優が、あんたら(脚本家などの裏方)は名前を変えたら生きる道もあるけど、俳優は顔を隠せない。思想を捨てなければ仕事がもらえない、仕方がなかったと訴えていました。それもそうだと思いました。その選択を、陥れられた方としては許せないけれども、一定の理解はできるという描き方でよかったです。
役者はあまり知らない人ばかりでした。ヘレンミレンとジョングッドマン(バッドで大暴れ最高)とエルファニングぐらいでしょうか。なんせトランボ役の方を全然知りませんでしたから。
水に浸かっての執筆風景やインコをなでなでする感じが変人って感じで好きです。