海よりもまだ深くのレビュー・感想・評価
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予告が秀逸。
3月ごろからこの映画の予告が流れるたび、予告だけで泣くという事を繰り返していました。だって是枝さんとハナレグミって!なんて合うの?みたいな。
ハナレグミが、
夢見た未来はどんなだっけな
と歌い、
文字で
みんながなりたかった大人になれる訳じゃない
なんて語りかけられたら。
そのものな大人になってしまった私としては、泣くより他ないわけで。
公開前に感動のピークが過ぎてしまった感もあるのはあるのですが、いやいやいい映画でしたよ。
予想以上にダメな人の良多を私は全く愛でられないけれど、でも彼の中に自分が少し見えました。
私は高校生を恐喝したり、ギャンブルも家賃光熱費滞納もしませんが。
くだらないプライドを捨てて今できる事を誠実にやれよ、オカンの金を巻き上げようとかすなよ。
真木よう子がよかったです。樹木希林はもはやイキガミ様ですな。
音楽の先生の家の娘さんのこんなハズじゃなかったという気持ちなんかも、想像がかきたてられます。
だらしない父の相手をしてくれる息子がかわいかった。
海より深く人を好きになったことなんてないから、生きていける。
それはそうかも。悲しいけれど。
死んだ良多の父が、物語を動かしている感じがしました。
すごくよかった
是枝監督の映画には今までそれほど深く感動したことはなかったのだが、この映画はとても心にしみた。
真木よう子が、別れていてもそれほど感情的になることなく阿部寛と接しており、また元義母と息子をあわせているなど、人間的に素晴らしい。今の彼氏とも打算的でしたたかな関係にあることをうかがわせたのだが、あの彼氏はあまりよくないと思う。コブ付きの若くない女と結婚を考えているだけでもすごい甲斐性で、もしかしたらバツがいくつもある人物なのかもしれない。
漫画原作の仕事を下に見ているのはアホだと思う。相手をしてくれる編集者もいるしまだ本当の辛さを味わっていないのかもしれない。
母親を出し抜いてお父さんとひそかな楽しみに興じるのはとても素敵な場面だった。
感動とはちょっと違う、けど心に響く
別に感動で涙が出るような話ではないけど
見ていてそれぞれに感情移入できる
何より役者がみんな上手すぎるw
男は過去に生きる、何かを諦めなきゃ幸せになれない
何になりたかった?今なれてるか?今何になりたい?こんなはずじゃ無かった?これでいいのか?
自問自答
見終わってからいろいろ考えてしまった
人生を許すこと
公開してすぐ観に行きましたが、まだ映画の中です。
折に触れ、映画のシーンや台詞を思い出します。
このままこの中で暮らしていきたい。
個人的に心に抱えていた漠然とした問題を解放してもらえたような、
救済された気がします。
何かメッセージや目的があるものではなく、ただ人生そのものと人の感情の描写であり、誰のせいというような価値判断や裁きもない。
ただ愛情ある眼差しでみつめるだけ。
ギャンブラーで、「勝負しなきゃあ」という台詞を体現してきた主人公。
恐らくずっと不安や悲しみを耐えてきて、決断したのであろう元奥さん。
対照的に、苦労を耐え抜いて夫と添い遂げたお母さん。
そんな祖母を尊敬し、お父さんもお母さんもどっちも愛していて、両親の復縁を願う息子。
じゃあ主人公が悪いのか?といえば、彼もまたお父さんを愛していて、その生き方をなぞることで父親を肯定しているだけなのだ。
どこをとってもその気持ちが切ないほどよくわかる。
小説で賞をもらい、美人の奥さんと子供にも恵まれた幸福な時間があったはずで、
その時を忘れられず執着してしまう男の人と、先へ進む女の人の強さ。
探偵事務所の女の子の、女性は上書き保存ではなく塗り重ねていくようなもので当然下には残っているという言葉が、後の勇気に繋がる。
負けて全てを失っても勝負をし続ける人生が、男の人にとってのほんとうに幸せな人生なのかなあ。幸せでなくとも、そう生きるべきとインプットされているのかも。
昨今なかなか女性に理解されなくなってきて肩身の狭い、男性のどうしようもない性に対する諦念や許しに満ちた眼差し。
あらゆるものをはぎ取った、生の男性の感情そのものが映っている。
・・と書いたらキリがなく、台詞も挙げればキリがないけど、
一つだけ「男の人って賞味期限気にしますよね」は天才だと。
松尾スズキがインタビューで「心の中に女がいる」と宣っていたけど、そういうことなんだろう。
あと、「昭和あるある」が楽しかった。老人は出られないのではなく、あえてその時代から出ないでいるのかも知れませんね。
それぞれのキャラクターへの理解を深めるような細々した”伏線”が流れるように回収されてゆくのも楽しかったです。
主人公はこれからどういう人生を送ることになるのか。
幸せになって欲しい。いや、幸せな出来事を積み重ねてほしい。
阿部ちゃんや樹木希林はいわずもがな、真木よう子も池松くんも小林聡美も、子役の男の子も、皆が優しくて、素晴らしい存在感でした。
こんな監督と同時代を生きられて本当に幸せです。
人生の一本になりました。
心が温かくなる
小説家で悪徳探偵の阿部寛、ギャンブル好きの夫を亡くして一人暮らしの母の樹木希林、離婚した元妻の真木よう子と息子が台風の一夜を過ごすというストーリーです。親子や姉弟の会話が身内らしく面白く、肉親の情が感じられて、ダメ男の阿部寛が愛おしく思えてきます。ハッピーエンドではありませんが、何か心が温かくなり、気持ちが前向きになった気がしました。
伏線とかはアレな映画
大きなトラブルや感動もなく、バツイチ夫婦とその母親の日常?を眺める映画。
俺には物足りない要素がいっぱいなハズなのに、不思議と眠くはならなかった。
響子(真木)と福住(小澤)はうまくいったのか、
淑子(樹木)と仁井田(橋爪)の進展はあるのか、
町田(池松)が初めて一人で任された仕事は上手くいったのか、
宝くじは当たったのか、
良多(阿部)は、なにか成長できたのか(笑)
などなど、気になるところはアレのまま終わってしまうという。
ある意味、そんな事は大した問題じゃないという、器のデカイ映画だったのかもしれない。
バツイチ子持ち男にはツライ作品
いちいち自分の息子とかぶる。本当に欲しいものを遠慮してしまうところとか。たまに会えた時にハンバーガー食べに行くこととか。
とにかく子どもが登場するシーンでは毎回号泣してしまった。人の少ないレイトショーを選んでよかった。
ただ一つの不満点は、離婚後もあんなに仲良くしていることだ。これはありえないと思う。
なりたくない大人にだけはならないでおこう
是枝監督の映画タイトルには、「も」という語感を持つ作品が多い。過去作品『誰も知らない』『花よりもなほ』『歩いても 歩いても』、そして本作『海よりもまだ深く』。
この「も」を辞典で紐解くと、並列・強調・すべてを表す係助詞と、「たとえ~でも」という意味の接続助詞がある。
少々小難しくなったけれど、是枝監督作品の特徴として、「現状を認めて、受け容れた上で、未来は信じる」、そんな通念があるように感じる。
もう少し判り易く言うと、「いまはダメがもしれないけど、ダメはダメなりに、この先、かならず良くなる。だって、人間は、善いものなんだから」ということだ。
通底にこのような思いがあるから、新作が出るたびに観に行くのだろう。
四十を過ぎた篠田良多(阿部寛)は、妻(真木よう子)と別れ、一人息子の真悟(吉澤太陽)は妻が引き取った。
良多は過去に処女作で純文学の島尾敏雄賞を受賞したこともあるが、その後はほとんど執筆できていない。
いまは、小説の取材と称して探偵事務所に雇われて、他人の秘密を探っては、その秘密をネタに依頼人から金をせしめるという阿漕なことをやっている。
そんな彼だが、息子に対しては子煩悩で、「いい父親」を振りを続けている。
というのも、先ごろ他界した父親とは折り合いが悪く、父親のだらしなさが厭で嫌で仕方がなかったからだ。
しかし、都下の集合団地に暮らす母親(樹木希林)や、和菓子屋に勤める姉(小林聡美)からみれば、良多は父親にそっくりだという・・・というハナシ。
最近の是枝作品同様、この映画でも大きな出来事は起こらない。
家族・家庭の些細な出来事の積み重ねが描かれるだけ。
映画の中心となる台詞には、「なりたかった大人になれたか」という台詞がある。
この台詞を、真向から受け止めてはいけない。
真向から受け止めて、この台詞につづく想定問答と作ったとしてら
「なりたかった大人になれたか」
「なれなかった」
「じゃぁ、なりたかった大人にならなきゃ」
となるかもしれない。
でも、それでは、是枝監督の通念とは異なる。
つづく想定問答は、こう。
「なりたかった大人になれたか」
「なれなかった」
「でも、なりたくない大人になったの? なりたくない大人になってなければいいじゃないか。まだまだ、なりたい大人になる余地はあるよ」
良多が「なりたかった大人」は、作家として成功する大人。
「なりたくなかった大人」は、子どものことを理解しない、だらしない父親のような大人。
いま、良多はただただ、だらしない大人になりそうになっている。
「なりたい大人」に、しがみついているから。
そんな良多に対して、母親がいう台詞が心に沁みる。
「しあわせっていうのは、なにかを手放さなきゃ、なれないないものなのよね」と。
良多が「本当に」なりたかった大人は、子どものことをいちばんに考え、子どもの気持ちに沿える大人だった。
映画終盤で、是枝監督の通念、「現状を認めて、受け容れた上で、未来は信じる」が立ち上がってくる。
たしかに「いまはダメがもしれないけど、ダメはダメなりに、この先、かならず良くなる」はずだ。
作家という儚い夢に手放しても、子どもにとって善い大人になろうと決意する良多を後押しするのが、知られざる父親のエピソード。
息子のことなど何一つ構っていなかったかのように思えた父親が、受賞後にとっていた行為・・・
都心の雑踏の中で妻と子どもと別れる良多の背中に、「善く」なろうとする意思がみえ、しみじみと心に沁みました。
怪演 樹木希林
福山雅治が阿部寛に変わっただけなのかと思うくらいキャストのかぶりが多く新鮮さがない。海なんてまったく見えない団地での話。タイトルをつなぐのはラジオから流れてくるテレサ・テンの歌。このエピソード必要だろうか?ほかにもエピソード凝り過ぎ。というか、盛りすぎ。悪くはなかったが、家族がテーマなら興信所の同僚は出てこなくてよい。質屋はいいとしてRPGのようにいろいろ絡めすぎて散漫な印象。音楽会などほとんど蛇足。
聞いていて気恥ずかしくなるようなセリフの数々。脚本最悪。それをなんとか飲み込めるようにしてくれたのは樹木希林の演技力である。一重にこれに救われている。
この監督の表現は海街diaryのような原作の軸を失うとこんなにも凡庸なのかと幻滅した。
「今回の良多はあれだね〜」
是枝作品でよく聞く「あれ」ってフレーズ、今回も多かった。どこかにある家族の日常会話。
良多の未練タラタラで器の小さいくせにプライドだけは高くその上ギャンブル癖のある最低な男にはうんざりでした。危うく阿部寛を嫌いになりそうでした。
小説家で賞を受賞した事もあったのだが今では探偵事務所で日銭を稼ぐ毎日金欠な男である。
年老いた母は古い団地で1人暮らしていた。
娘の家族がたまに訪ねてはすねをかじる始末で、半年前に他界した夫にもお金で苦労させられたようだ。
長男の良多は父に似たのかお金にルーズで、いつまでも過去に囚われ、夢を追いかけ堅実さに欠ける。だから嫁に愛想を尽かされたのかも。
台風接近の一夜を母の家で元家族と過ごす良多。
もう一度やり直せないかと元嫁に問うが前に進ませて欲しいとバッサリ切り捨てられた。
良多は父との台風の思い出を今度は息子との思い出にかえた。
宝くじが当たったらおばあちゃんと家族皆んなで住む家を買うと孫の慎吾が言った時、本当にそうなればいいなぁと思った。
離婚や再婚は当人同士の問題かも知れないが、子供や親兄妹は突然家族になったり他人になったりできないし、割りきれない。
どんな形であっても家族なんだと実感できたんじゃないかな。良多も前に進んでいけるね。
是枝さん上手すぎてこわい
是枝さん、どんどん上手くなってる。
無駄がシーンがどんどん無くなっていってる。是枝さん、ほんと怖い人だ。
日本人監督としてはトップレベルに上手い。
ホント、是枝作品くらいだよ。
安心して見れる映画を作るのは。
是枝さん特有の、生活の中に潜む細かい描写に、より磨きがかかってて、所々笑わせてくれた。
線香の燃えかすが溜まって線香が刺さらないだとか、お母さんがカルピスのアイスを作ったりだとか、孫が泊まるからと嬉しくなってお風呂沸かすだとか。冷蔵庫のドアを開けるたびにお姉ちゃんが前かがみになって避けるだとか。誰もがなんとなく経験ある様な、日常の中のちょっとしたホッコリを入れてくるあたり、とても上手。
ちなみに海外では小津安二郎をどう思うかなどと良く聞かれるらしいが、主な影響は向田邦子、山田太一に受けていると公言してる。
それらの細かい描写を活かすのは、やはり役者陣の巧さだろう。
今作も役者陣は是枝作品の常連さん達。
是枝さんと息が合っているんだろう。
監督の求めているものもわかっているんだろう。みんなハマり役だった。
特に樹木希林さんは最高だった。普遍的な母になってた。誰もが自分の母と重ねる瞬間があるだろう。
阿部寛も、今まで見た阿部寛の中で一番ハマり役だった。すげぇダメな男なんだけど、嫌いになれない。
実際に是枝さんと阿部寛は、それを意識してキャラクターを作り上げていったらしい。
ダメな男だけど、観客が嫌いにならないように、と。これとても高度な事してると思う。
是枝作品に初参戦の池松君が結構良い味出してて、彼の物語も見たいなと思った。
今作の主題歌 ハナレグミの深呼吸のミュージックビデオでは、池松君の物語を少しだけ描いてる。
是枝さんは自分の私的なものを映画に入れ過ぎないように心掛けていると言っているが、今作は是枝作品の中でも特に私的な匂いがした。
舞台の団地が実際に是枝さんが住んでいた所ってのもあるし、是枝さんの幼い頃の夢は小説家。今作の主人公は、書けなくなってしまってはいるが、小説家だ。
そして主人公は日頃から良い言葉などを小説の為にメモを取るが、是枝さん自身メモを取る人らしい。
(西川美和監督も同様との事)
お父さんの遺品は葬式の翌日に捨てた、というシーンは、実際に是枝さんのお母さんがやった事らしい笑
是枝さんはインタビューでゾッとしたと答えている笑
なぜここまで私的なものになったかといえば、今作は海街diaryと同時に進めていたらしく、海街が原作ものだから、その反動だったのかもしれない。
今作はセリフに「アレ」が多い。
「あんまり言ってもアレだしなぁ」
「そういえばアレどうだった?」
など、代名詞としてのアレが多い。
海街diaryも多かった。
意識的に、セリフとして、「アレ」を入れてる。こういうセリフを書く事は普通ないから、是枝さん気に入ってるんだろうな。今後の是枝作品に増えそうだ。
今作のラストは、甘やかさず、厳しすぎないラストになっていた。
「幸せってのは何かを諦めないと得られない」というセリフがキーワード。
主人公が諦めるものは2つあって、
1つは、奥さんとよりを戻す事。
2つは、小説家を続ける事。
劇中でラジオからテレサテンの「別れの曲」が流れ、それが暗示する様に、
映画のラストでは、奥さんを諦める事になる。
その諦めが主人公の成長を示し、終わる。
彼はその後、小説に集中するのだろうか。
それとも小説も諦めて、他の幸せを獲得しに行くのだろうか。
また、是枝さんにとってこのラストがどの様な意味を持つのか。
是枝さんは奥さんと娘さんがいるはずだが、このラストは、何を示しているのだろうか。
そんな事を考えさせるラストでした。
余談だが自分は川越出身で、西武線をよく使うので、映画の雰囲気を共有できてよかった。
海よりも深く自分の人生を愛す
まだ「海街diary」の余韻が残りつつも、是枝裕和が続けて贈る監督最新作。
個人的に毎回ハイスコアの是枝作品だが、今回も期待にそぐわぬ良作。
オリジナル脚本で、望んでいた大人になれなかった中年男とその家族の物語。
篠田良多。
15年前に一度文学賞を取ったっきり、その後全く芽が出ず、「執筆の取材の為」と探偵事務所で生活費を稼ぐ日々。時に依頼主だけじゃなく、調査相手からも悪どく金を要求。
稼いだ金はすぐギャンブルへ。あっという間に浪費。金欠。
結婚していたものの、愛想尽かされ、離婚。息子への養育費は滞りがち。
元妻に未練タラタラで、探偵という仕事を利用して身辺調査。恋人が居ると知り、ショック…。
良多の登場シーンが秀逸。
親の居ぬ間に勝手に上がり込み、金目の物を物色。仏壇の饅頭を一口パクリ。
やってる事は立派な家宅侵入・窃盗。オイッ!(笑)
…と言うように、画に描いたようなダメ大人。
ここまでダメダメだと逆に天晴れ!
それを阿部寛が演じる。最高!
そんな良多だが、度々母親に会いに行っている。
母・淑子は団地で気楽な独り暮らし。
団地の外観もかつては賑わってたであろうが今は寂れ、中も染み付いた生活臭がツンと匂ってきそう。
大勢集まると、狭くて狭くて…。
ちょっと入りたくないくらい汚れた風呂場。
訪ねると、おせっかいでお喋り。
暑い日は、冷凍庫でカチンコチンに凍らせた冷蔵庫臭たっぷりのカルピスをスプーンでほじくりながら…。
もう、マジで自分の祖父母の家を思い出した!
二人共もう亡くなったが、団地住まいで、日曜には両親と毎週のように会いに行った。
ニコニコと出迎え、ちょっと濃い目だけど手作りの祖母の味。
帰る時は、「泊まってけ、泊まってけ」。
部屋の窓から手を振って見送り。
あのカチンコチンのカルピスなんて、間違いなく食べた!
昔の記憶が蘇り、作品世界に入り浸ってしまった。
それらを絶妙に表した演出、そして樹木希林の演技については、もはや言葉を重ねなくてもいいだろう。
ひょんな事から淑子の家に集った良多と元妻と息子。
台風直撃で一晩泊まる事になった元家族は…。
劇中の良多さながら、ついメモしたくなる台詞も多い。
「何処で狂ったんやろ、私の人生」
「男ってのは失ってから初めて愛に気付く」
「全てひっくるめて私の人生」
「誰かの過去になる勇気を持つのが大人の男」
「そう簡単に望んだ大人になんかなれないんだよ」
まるで自分の事を言われてるような、自分の心を見透かされているような台詞の数々に胸がチクチク。
これらの台詞が表すように、切なくて可笑しい本作。
でもそれ以上に、温もりこそを感じた。
良多は確かにダメな大人だけど、実はとても母親思い。(金目の物を物色しておいて、見栄張って母親に小遣いやって、その後姉に金を借りに行くなんて、どうしても憎めない!)
そんな母も、大器晩成(になるであろう)の息子が可愛くて仕方ない。
良多の探偵の後輩も、ダメな先輩を慕っている。(池松壮亮、好演)
良多の息子の表情から、父親の事をどう思ってるかは読み取り難い。
しかし、雨の中のアレ。
良多も自分の亡き父親としたというアレ。
良多の父親もギャンブル好きの困ったダメ親父。
そんな父と比べられるのが嫌な良多。
でも、良多も息子もただ単に自分の父親が嫌いという感情だけではなく…。
祖父・父・息子、やっぱり血の繋がった似た者同士なんだなぁ、と。(この子役が巧い)
真木よう子が演じた元妻。
恋人が元旦那の小説を読んだと言い、「で、どうだった?」と聞き返した時のちょっと嬉しそうな表情。
99.9%は元旦那にうんざりしてるけど、0.1%は…。
女性は前の男の事はキッパリ忘れるというが、一度は愛し合って夫婦になった男と女、そう容易くは…。
それぞれの複雑な思いを胸に過ごした一晩は、それぞれにとってもケジメ。
ここでまた台詞が心に残る。
「幸せってのは、何かを諦めないと手に入らないもの」
不思議な事に、映画で成功者の華麗なサクセス・ストーリーを見ても全く面白くないのに、ダメ人間の不器用な人生を見てると堪らなく愛しい。
全員がじゃないけど、多くの人が同じ思いを抱いているから。
なりたい大人があった。
こんな人生の筈じゃなかった。
なれなかった人生の中で、不器用に幸せを見出だす。
皆、海よりも深く自分の人生を愛している。
平凡な一般人の日常を切り取っただけの作品なのに、じわっと琴線に迫る無言の間がある
本日「海よりもまだ深く」の完成披露試写会が、東京・丸の内ピカデリーにて行われ、いってきました。キャストの阿部寛、真木よう子、吉澤太陽、樹木希林、監督の是枝裕和が登壇しました。
最近の是枝作品は必ず試写会で見ています。監督に直接質問もしたことがあり、好きな監督のひとりです。
その是枝監督が原案、脚本も手がける本作は、いくつになっても大人になりきれない男と、彼を深い愛で包み込むその母親を軸にしたホームドラマです。
どこまでも夢に向かって努力をし続けた結果、……(^^ゞとなっている方いませんか?それは私なんですが(^^ゞ、だからこそ人ごととは思えず、主人公に感情移入してしまいました。
物語は、15年前に1度だけ文学賞を受賞したことのある良多(阿部寛)が、父が遺した遺産がないか実家にしのびこんで物色するシーンからはじまります。そこまで生活が追い込まれていたのは、ギャンブルに稼いだ金をつぎ込んでいたからでした。
小説の取材のためにと始めた探偵のアルバイトでも、浮気調査対象の夫人に接触したり、いじめ調査ではいじめのボス格の小学生を脅したりして金を巻き上げる始末。でもそんなアブク金は立川競輪のもずくとなって果てるのでした。そのため毎月の別れた元妻の響子(真木よう子)に支払う息子への養育費の支払いも滞り、月に一度の楽しみである息子の真悟(吉澤太陽)との面会も拒絶されてしまうのでした。
良多の響子に対する未練は強く、仕事の合間には後輩社員の探偵と組んで、響子の素行調査にに余年がありませんでした。そして、響子に新しく恋人ができたことにぼうぜんとなるのです。
一方、良多の小説家としての仕事もなかなか進みません。「純文学」へのこだわりが邪魔して、編集部から人気漫画家の原作を書いてみないかという提案も保留してしまいます。
真悟への会いたさを押さえくれなくなった良多は、響子に懇願して真悟との面会を果たします。真悟を強引に実家へ誘った良多は、響子に実家まで向かえるくるよう連絡。別れた家族が、良多の母・淑子(樹木希林)の家に集まることになります。
まるで良多は狙っていたのかと思うくらいその日は、台風が近づいていました。風雨が強まり、淑子は離婚後も交流のあった響子に、泊まっていきなさいよと懇願して、久々に別れた家族が再会し団欒が復活するのでした。
そんな様子を眺めるにつけ淑子は忍びなくなっていきます。そして、響子に「なんでこんなことになったちゃったのかしら?」と涙混じりに語るのです。本当は復縁して欲しかったのにという淑子の気持ちが、ヒシヒシと伝わってきて泣けました。母の愛はタイトル通り「海よりもまだ深く」だったのです。たとえそれがバカ息子でも。
一番の見どころは、ラストの良多が嵐の夜に真悟を団地のたこ入道型滑り台へ連れ出すシーン。そこで良多が真悟に、「なりたくてなれなかった大人について」自分のことを正直に語ることが、とても印象的でした。そしてそこで語られるある決意が、この作品にとって唯一の希望なんでしょうね。残念だけど(^^ゞ
さて、第69回カンヌ国際映画祭ある視点部門の正式招待作品に選出された本作。問題はなぜ「私たちの周りでも起こるような出来事だけで作られた小さな物語」が、数多くの邦画作品のなかで選ばれたことです。しかも是枝作品は3作品連続で招待という快挙!
どこにでもあるような平凡な話しが、なんでカンヌの切符を掴んだのでしょうか。それは、台本どおり、アドリブなしで演じているのに、日常会話と変わらない自然体なやり取りが素晴らしいからだと思います。出演者が芸達者ばかりだとは言えません。特に是枝監督の演出では、毎作品子役には、台本を渡さず、当日になってからぶっつけ本番で演じさせているのです。それでも真悟役の吉澤太陽は違和感なく語ってしまうところが凄いのです。
さらに阿部寛が「セリフがないところでもいろんな人の生き方が描かれているようで感動しました」と作品への思いを明かしたように、絶妙の間のとり方なんですね。
映画は、台詞で説教してはいけません。あくまで映像で紡いで、観客の共感を誘発するものでなければいけません。是枝作品の素晴らしいところは、一切押しつけがましくない平凡な一般人の日常を切り取っただけの作品なのに、じわっと琴線に迫る無言の間があることです。
ところで、ロケ地は是枝が9歳から28歳まで暮らした東京・清瀬の旭が丘団地の一室。そんなどこにでもある団地のエピソードが海外に発信されるのだから、海外の人がどんな場面で受けるのか、主演の阿部寛ならずとも興味津々ですね。
ちなみに、子供の頃の監督を知っている住民が多く住んでいて、撮影中に『是枝くん、偉くなっちゃったわね』と団地の人に呼び止められた監督は、かなり気恥ずかしかったようです。
演技面では、母・淑子を演じた樹木の飄々といつものクスッと笑わせる演技に加えて、老いてな母親として、なかなか大成しない息子を労ろうとする愛情を見せるところが素晴らしかったです。また賞をとってしまうでしょう。
主演の阿部は「ここまでダメダメな男を演じたのは初めてです。でもこういう男って、憎めなくてかわいいなと思いながら楽しんで演じました」と振り返りながら語ってくれました。これが阿部の素顔ではないかと思えるくらい、自然にダメ男を演じていました。
一方響子役の真木は、良多とは対照的な良妻賢母ぶり。なんでこんな人が良多のお嫁さんになったのでしょうか?演じた真木自身も笑ったという、人生ゲームのシーン。手持ち無沙汰な嵐の夜に、良多から人生ゲームをやらないかと誘われて、『あなたと人生ゲームなんて、悪い冗談だわ』と断るシーンが、本当におかしかったです。
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