「是枝さん上手すぎてこわい」海よりもまだ深く saikimujinさんの映画レビュー(感想・評価)
是枝さん上手すぎてこわい
是枝さん、どんどん上手くなってる。
無駄がシーンがどんどん無くなっていってる。是枝さん、ほんと怖い人だ。
日本人監督としてはトップレベルに上手い。
ホント、是枝作品くらいだよ。
安心して見れる映画を作るのは。
是枝さん特有の、生活の中に潜む細かい描写に、より磨きがかかってて、所々笑わせてくれた。
線香の燃えかすが溜まって線香が刺さらないだとか、お母さんがカルピスのアイスを作ったりだとか、孫が泊まるからと嬉しくなってお風呂沸かすだとか。冷蔵庫のドアを開けるたびにお姉ちゃんが前かがみになって避けるだとか。誰もがなんとなく経験ある様な、日常の中のちょっとしたホッコリを入れてくるあたり、とても上手。
ちなみに海外では小津安二郎をどう思うかなどと良く聞かれるらしいが、主な影響は向田邦子、山田太一に受けていると公言してる。
それらの細かい描写を活かすのは、やはり役者陣の巧さだろう。
今作も役者陣は是枝作品の常連さん達。
是枝さんと息が合っているんだろう。
監督の求めているものもわかっているんだろう。みんなハマり役だった。
特に樹木希林さんは最高だった。普遍的な母になってた。誰もが自分の母と重ねる瞬間があるだろう。
阿部寛も、今まで見た阿部寛の中で一番ハマり役だった。すげぇダメな男なんだけど、嫌いになれない。
実際に是枝さんと阿部寛は、それを意識してキャラクターを作り上げていったらしい。
ダメな男だけど、観客が嫌いにならないように、と。これとても高度な事してると思う。
是枝作品に初参戦の池松君が結構良い味出してて、彼の物語も見たいなと思った。
今作の主題歌 ハナレグミの深呼吸のミュージックビデオでは、池松君の物語を少しだけ描いてる。
是枝さんは自分の私的なものを映画に入れ過ぎないように心掛けていると言っているが、今作は是枝作品の中でも特に私的な匂いがした。
舞台の団地が実際に是枝さんが住んでいた所ってのもあるし、是枝さんの幼い頃の夢は小説家。今作の主人公は、書けなくなってしまってはいるが、小説家だ。
そして主人公は日頃から良い言葉などを小説の為にメモを取るが、是枝さん自身メモを取る人らしい。
(西川美和監督も同様との事)
お父さんの遺品は葬式の翌日に捨てた、というシーンは、実際に是枝さんのお母さんがやった事らしい笑
是枝さんはインタビューでゾッとしたと答えている笑
なぜここまで私的なものになったかといえば、今作は海街diaryと同時に進めていたらしく、海街が原作ものだから、その反動だったのかもしれない。
今作はセリフに「アレ」が多い。
「あんまり言ってもアレだしなぁ」
「そういえばアレどうだった?」
など、代名詞としてのアレが多い。
海街diaryも多かった。
意識的に、セリフとして、「アレ」を入れてる。こういうセリフを書く事は普通ないから、是枝さん気に入ってるんだろうな。今後の是枝作品に増えそうだ。
今作のラストは、甘やかさず、厳しすぎないラストになっていた。
「幸せってのは何かを諦めないと得られない」というセリフがキーワード。
主人公が諦めるものは2つあって、
1つは、奥さんとよりを戻す事。
2つは、小説家を続ける事。
劇中でラジオからテレサテンの「別れの曲」が流れ、それが暗示する様に、
映画のラストでは、奥さんを諦める事になる。
その諦めが主人公の成長を示し、終わる。
彼はその後、小説に集中するのだろうか。
それとも小説も諦めて、他の幸せを獲得しに行くのだろうか。
また、是枝さんにとってこのラストがどの様な意味を持つのか。
是枝さんは奥さんと娘さんがいるはずだが、このラストは、何を示しているのだろうか。
そんな事を考えさせるラストでした。
余談だが自分は川越出身で、西武線をよく使うので、映画の雰囲気を共有できてよかった。