「ごめんなさい、甘くみてました。」シネマ歌舞伎 歌舞伎NEXT 阿弖流為(アテルイ) 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
ごめんなさい、甘くみてました。
”阿弖流為”ということで観てみようとは思ったのだが、正直、たかをくくっていた。どうせ、阿弖流為も田村麻呂もいい男振りで正義だの平和だの言い争って、観客を置いてきぼりにして大円団のラスト。いや、せいぜい阿弖流為の恨みが都に席巻する悲劇のラストか?、さてさてお手並み拝見、その程度の気構えだった。
いざはじまってみれば、やはりストーリーはハチャメチャだ。変だと思うところもいくらでもあった。
しかし。
しかし、だ。
いつのまにか、そんなダメ出しの気分さえも押さえつけられてしまうほどの圧倒的な演技力に、ただただ茫然!!
現代語を使っていながら、見栄や立ち回りでは歌舞伎のお約束も巧みに取り入れ、まさに緩急自在の大舞台だ。
そして何よりも、勘九郎、七之助、染五郎、彼らがこんなすごい役者だと思っていなかった。
とにかく、役に没頭する彼らの気迫から、一瞬たりとも目が離せない。見逃してはいけない、という気持ちよりも、気迫に押され目を逸らすことができない、といったほうが正しい。もうマウンティングされているような気分なのだ。
これを、生の舞台でやったのか?なんてエネルギーなんだ!?
カメラが寄ってくれるおかげで、その表情、目つき、口元、肌、滴る汗、全部見せつけてくれる。
その熱量が画面から強烈に感じるほどの迫力に、いつの間にか、茫然、驚嘆、陶酔、そして感涙。
荒ぶる神・アラハバキの神秘さ、伏魔殿たる朝廷の闇の深さ、実にいい。
阿弖流為や田村麻呂の描写には、やはり間違いが多々あったけれど、戦さ終焉後の彼らの心理描写としてはほぼ納得のいく筋書きだ。あの、敵でありながら信を置ける男同士であった二人の悔しさこそが、この物語の肝なのだ。
え?これ、3時間もあったの?と振り返るほどの満足感だった。