「前へ進むための失恋はハッピーエンド」好きにならずにいられない 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
前へ進むための失恋はハッピーエンド
43年間恋人が出来たことがない。当然独身で、趣味はジオラマ製作。職場では同僚にいじめを受け、でも逆らうことが出来ない弱気で内気な性格。見た目は大男で強面だから、仲良くなった少女をドライブに連れて行っただけで誘拐犯扱い。そんな男が、43歳にして大真面目に恋をした。ルックスも経験もお金も何もない彼は、ただただ優しさだけをもって彼女に近づいていく。彼女に恋をしたことで、少し行動する男になる。そんな姿に、こちらが勇気をもらうような感じ。だからと言って、ハートウォーミング映画みたいなことにはならないし、映画がゴールにしているのは、二人が結ばれて終わるような安易なハッピーエンドではない。この映画が応援しているのは、彼女との出会いをきっかけにして、フーシが一歩踏み出す勇気を得ること。だからハリウッド・ロマンスやハートウォーミング映画のような筋書きは通用しない。きちんと、フーシの「思い癖」の変化を見つめている。
ひょんなことで別の職場で働くようになった時、「おい新入り!」と声を掛けられ一瞬身構えるフーシが、「試合を見に行くからお前もどうだ?」と誘われて戸惑ったような顔をする。まるで虐げられて当然の自分が誘われて驚いたかのように。そして「これはお前の分だ」とビールを差し出される。世間は、あなた自身の自己評価ほどあなたを低くは見ていないんだよ、と主人公にそっと微笑むような優しいシーン。とても印象に残った。
フーシの恋路は、その優しさだけではどうにも出来ずにビターな結末を迎えるけれど、それでもこれはハッピーエンドだと思える映画だった。傷つき、落ち込むんだりしても、昨日までより少しでも前へ進むための失恋なら、それはハッピーエンドなんだと、フーシの肩を叩くようなそこには優しさがある。エンドロールで流れるメロディーはとても切なくて悲しい旋律だったけれど、同じくらい優しくて慰められるようでもあった。だからこれは、とても切ないけれどハッピーエンドなんだ、と思った。