「素晴らしい画力で語られる海の神話」ソング・オブ・ザ・シー 海のうた りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
素晴らしい画力で語られる海の神話
海辺の灯台に暮らす一家は、灯台守の父と息子のベン、それに幼い妹シアーシャ。
子どもたちの母親はシアーシャが生まれると姿を消してしまっていた。
実は、母親はアザラシの妖精セルキー。
セルキーの歌には、石になってしまった妖精たちを解かす力があるのだが、母親はシアーシャを生んだ際に、歌声を喪ってしまったのだった・・・
というハナシで、アイルランド(ケルト)の神話というか民話に基づいた物語で、とにもかくにも画面が素晴らしい。
ケルト独特の線描をバックにして、登場人物の造形のほとんどを丸まっちい流線形で形作られており、それを観ているだけで、あぁとため息が出てしまう。
個人的に、アニメーションの魅力は画、と思っており、その画も写実的なものよりは、デザイン性が高く、シンプルなものの方が好み。
なので、この映画は、あぁ、こんな絵が動くのかぁ、ということだけで、うっとりしてしまう。
そして、物語の根底にある神話的世界が素晴らしい。
妖精たちが石化してしまった理由が、フクロウの魔女の息子を思いすぎることによる過剰な愛情が、哀しみや悩みを除去することで生じたというのが興味深い。
さらに、フクロウの魔女の息子が大きな海神で、実は、石化した海神がシアーシャたちが暮らす灯台のある島だった、というあたりも一驚である。
ただし、物語の展開的に、途中、町に行かざるを得なくなったベンとシアーシャの、町での物語がやや退屈。
これは、絵的魅力が、海の描写に比べて少々落ちるから。
もうひとつは、妖精たちがひげ面の老人で、(古いひとにはわかると思うが)ゲバゲバ90分のゲバゲバおじさんみたいで騒々しいのには、ちょっとげんなり。
とはいえ、日本製アニメにない、絵が動く魅力を満喫でき、なかなかの秀作である。