劇場公開日 2016年8月20日

ソング・オブ・ザ・シー 海のうた : 映画評論・批評

2016年8月16日更新

2016年8月20日よりYEBISU GARDEN CINEMAほかにてロードショー

アートアニメーションの底知れない魅惑。美しくどこか懐かしい不思議な物語

海辺の灯台から見える夜の海。そこにアイルランド音楽のメランコリックで魔法のようなメロディが被さって、妖精たちの住む絵本のような物語世界へと、海に潜るように、一気に引き込まれていく。これはアイルランドの民間伝承や神話を組み込んだ、幼い兄と妹をめぐる不思議な物語。アートアニメーションの底知れない魅惑に体中の細胞が喜ぶのを感じるほど美しく琴線に触れ、しかも面白く、かわいらしい映画だ(つまり満足度満点!)。

4歳の男の子・ベンと、赤ちゃんを宿したやさしいママに、涙の別れが訪れる。それから6年。ママを失ったことで妹のシアーシャにやさしくできないベンだったが、6歳になっても口のきけないシアーシャは、実はアザラシの妖精・セルキーだったママの血を濃く引いていた。これはシアーシャの物語というより、妹を守るための冒険で成長していく兄・ベン(歯が欠けているのがたまらなくかわいい!)こそが主人公。どこか懐かしいような気がするのは、アイルランドが日本と同じく湿気の多い島国だからだろうか。モチーフとなっている民話によく似た話が日本にもあるからか。海ではアザラシ、陸では美しい人間の姿になる妖精・セルキーの伝説は、日本の「アザラシ女房」や「羽衣伝説」に通じる。また、日本のアニメ好きだというトム・ムーア監督が作画のタッチで影響を受けたのが、東映動画「わんぱく王子の大蛇退治」だからというものあるかもしれない。

海風になびくベンやシアーシャの髪。青い夜の海で泳ぐ、つぶらな瞳のアザラシたち。愛嬌たっぷりでユーモラスなおじいちゃん妖精たち。複雑な感情を持つおばあちゃん魔女。温かみのある手描き水彩画を基盤とする色彩の濃淡。シンプルで流れるような描線の動き。神話や民話を生き生きと語る自由なイマジネーション……。この映像と物語はきっと小さな子どもを夢中にさせるし、大人をうっとりさせる。そして浮かび上がってくるのは、母親(パパにとっては妻)の喪失によってねじれ、こじれてしまった家族の愛だ。悲しいからとかうれしいから、だけでは説明のつかない涙が頬をつたうだろう。アカデミー賞候補となったのも当然。ハリウッドの3Dアニメーションには望めないタイプの幻想とぬくもり、詩情と哀愁がいつまでも心に響いてやまないのだ。

若林ゆり

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