「大衆向けアニメ映画は、これ以前とこれ以降に分かれた。ジブリや細田守は面倒臭い。」君の名は。 真中合歓さんの映画レビュー(感想・評価)
大衆向けアニメ映画は、これ以前とこれ以降に分かれた。ジブリや細田守は面倒臭い。
これの初見を味わえる奴が羨ましい。
意外とレビューを投稿していなかったのでさっき地上波で見たのもあって投稿。実は劇場で3回も観に行ったのにそれ以来で家で観たのは初めてでした。いやあ~でもセリフとか全部覚えてたな。
本作は昨今邦画界をリードするようになったアニメ映画ブームの火付け役とも言える存在で、当時まだアニメオタクにしか知られていなかった新海誠監督の名前を世に知らしめた作品です。当時ZIPで初めて映像が公開された際に『なんだこの面白そうなアニメは!!??』と衝撃を受けたのを今でも覚えています。それを見ていたZIPの女子アナさん方も食い入るように見ていて、本当に良さそうな作品の宣伝を観た時ってあんな反応になるんだ!って思いました。
さてさて、この作品が素晴らしいのはRADWIMPSの旋律に乗るように作品も我々も一本の線、組紐に乗せられているかのように軽やかに物語が進行することです。つまり、観ていてストレスが無いのは勿論のこと、決して単純な話では無いのに初見からこの物語に乗っかれてそれでいて笑えて感動して涙出来るのです。
これはまさに見る清涼剤としか表現できないような、それくらい心が洗われるある種のサウナのような作品とも言えます。
瀧と三葉のドタバタ入れ替わりコメディ!?かと思いきや、実はティアマト彗星の落下による糸森町の壊滅事故が発生していて、入れ替わりも実は3年のズレが有った事が判明する。そこで初めて点と点が繋がりはじめ、冒頭の彗星や三葉の家系や糸森町のその場所の形状など、もう一気に畳み掛けてくるような伏線回収の気持ち良さが異常なんです!
更にそのティアマト彗星も昔同じ場所に落ちていて数千年の時を越えて会いに来たかのようにまた同じ場所に落ちてくる構図ですとか、一度は死んでしまった三葉達を救う為に入れ替わりを通じた未来改変など、もうここまで情報過多なのに頭が混乱せずに ”初見から理解出来て” 楽しめる。これこそが250億ヒットした所以なのでしょうね。
それともう一つ重要なのは、これも今日まで続く今のアニメの潮流を作っているの思うのですが、『君の名は。』以前の大ヒットアニメ映画にありがちだったジブリ作品や細田守作品的な、ある種の ””臭 さ”” が無いんです。
これは個人的な趣向の話にもなるかもしれませんが、『君の名は。』以前の大衆向けアニメ映画というのは、深夜アニメともジャンプアニメとも違うような、ある種のテンプレ的な ””臭 さ”” が有ったと思うのです。
例えば、主人公の家族親戚達がワイワイしながら同じようにウネッて踊ったりですとか、みんなが同じような笑顔を浮かべて「はい、ここ賑やかな良いシーンですよ~」みたいな、そういう指示臭さみたいなモノが感じられて、どこかストレスを覚えていた人は僕だけじゃないハズ。
言語化し辛いのですが、とにかくどこかそういった大衆向けの全国公開アニメ映画というモノには、何か強制されるような作られた喜びや笑いのような、深夜アニメのようにスタイリッシュでも無く、ジャンプ系アニメのように王道的でもない、わざと大人な雰囲気を作っているような、もしくは子供向けですよ~!みたいな描写ですとか、とにかく全国公開の大衆向けアニメであるが故に普段深夜アニメやジャンプアニメに触れている層からすると面倒くさいような空気感が有ったと思うのです。
ですが!!!!!!
この『君の名は。』にはそれが一切無く、これまでの大衆向け全国公開アニメ映画の常識を打ち壊したのです!!!まるで深夜アニメのようにOPが流れ始め、男女が入れ替わったのですから当然気になるような部分もスルーする事なく触れ、面倒くさい家族愛だのなんだのを説教臭くやるのではなく、スタイリッシュにテンポ良く瀧と三葉の愛を描く。
テッシー達もノリ良く協力して町の変電所を吹き飛ばすし、奥寺先輩も良い距離感で説教するわけでもなく寄り添ってくれる。おばあちゃんも意外と重要な役では無いし、瀧の計画も全然上手く行かない。そこに変な奇跡が介入する事はなく(カタワレ時は除く)、最後は三葉の力で父親と向き合いここの拗れもちゃんと拾う。
そしてそんな彼らにも、受験が有って就職が有って、この災害とは別に普段からの向き合うべき試練が有る。この現実的で観ている自分たちにも何か同じ事が出来てしまうんじゃないか?というような手の届くような世界観が、物語が、もう当時日本中の若者達にビシバシ来たんだと思います(笑)。自分もそうでした。(当時高校生)
まさに現代的な価値観で、アニメ映画を観ているからといって頭のIQを下げたり調節する必要は無く、そのままの感覚で楽しめるのが当時新鮮だったのです。
この”気持ちよさ”こそがヒットの真の原因でかつ、今日まで続く、邦画界を支配するようになったアニメ映画の新しい潮流の始まりだったと思うのです。みんなの行動に説得力が有って、共感出来て、不快で無くて、かつ面白い。そして感動する。全ての基準を塗り替えたのが、この『君の名は。』なのです。