「抗えない引力で、音楽が物語を引っ張っていく。」君の名は。 ゆちこさんの映画レビュー(感想・評価)
抗えない引力で、音楽が物語を引っ張っていく。
ファンタジーって現実と全く線引きされたものです。それなのに、超現実的な時空を跨いだ入れ替わりや世界(愛する人)の救済を描く舞台が、実在する風景や日常の中にある。こんな日常が、もしかしたら現実と地続きの世界にあるのかもしれないと夢を見させてくれる。
いつか憧れた運命や狂わしいほどのピュアな感情、胸の奥に仕舞ったあの機微にまた触れたくて、きっと私たちは何度も新海作品に会いに行ってしまう。
新海監督の描きたい対象の解像度の高さと、一筋縄ではいかない緻密に練られた物語。それでいてこちらを置いてきぼりにせず想像する余白まで与えてくれるエンタメ性。この点は川村元気さんとのタッグが実現しているのだと思いました。
入れ替わりの多重構造、能力は代々宮水に伝わるもので、彗星の落下による町の消滅を防ぐため必然的に与えられたものだったのかもしれない。避難決行できたのは、三葉の父も母と入れ替わりの経験があったからなのか。一つ一つの事象に意味があり、散りばめられたヒントによって納得感も得られて物語としても奥行きを楽しめます。
抗えない引力で物語を引っ張るような音楽も本当に魅力的でした。
オープニングの概念を昇華したような夢灯籠の演出は、始まっていく、動いていく、そんな感覚にさせられて序盤から強い力で物語へ引き込んでくれました。前前前世の疾走感の中で入れ替わりに気づいた2人が生き生きと小競り合いする様子は、まるで音楽が2人を茶化してるみたいです。スパークルが流れるのは、彗星が落下し悲惨な現実に繋がる布石、そして初めて2人が出会う刹那の喜びと離別や忘却に呆然とする場面。それなのに音楽からは、その先を予感させるような光を感じます。
作画やお芝居にとどまることなく、私たちの向かう方向を示し寄り添う、まさに音楽が物語になくてはならない一部として存在している作品でした。