「根底にあるのは現代人への警鐘。そして運命。実は観る人を選ぶ映画だった?」君の名は。 スタコラフスキーさんの映画レビュー(感想・評価)
根底にあるのは現代人への警鐘。そして運命。実は観る人を選ぶ映画だった?
ネタバレは極力避けるようにしているのですが、私の感想に近いレビューが見当たらなかったので敢えて詳細に感じたことを書かせていただきます。
この映画の根底にあるのは、モノや情報に溢れ古いものを置き去りにしてきた現代人への警鐘ではないかと思います。それを、新海監督は都会に住む男の子と田舎の神社の跡取り娘の入れ替わりというわかりやすい形で表現しています
そして時折出てくる“結び”という言葉や“カタワレドキ”、山頂のご神体。すべて現代人が忘れかけているものが、物語の重要な場面でキーとなってくることでさらに明確なものとなります
人間は生まれてから死ぬまでにいろいろなことを忘れていきます(というより覚えていることの方が圧倒的に少ない)。また、世代間でも受け継がれずに忘れ去られていくものが多いでしょう
しかしその中にも大事なものがあるのではないかということを、三葉と瀧が入れ替わっても時間の経過とともに忘れていくという設定で代弁しています
これは全くの私見ですが、東日本大震災のあと津波の押し寄せた地域の山の上のほうに、ここまで津波が来たという古い石碑があることが判りました。また、ある地域では掟によって低い場所に家を建ててはいけないと謂われてました
同じところに隕石が2回落ちるという設定、山頂のご神体と壁画は、私にこのことを思い起こさせました
そして最も重要なメタファーが運命です
日本には古くから、将来結ばれる人とは小指同士が赤い糸でつながっているという言い伝えがあります。この映画の中では組み紐というアイテムを使ってこれを想起させます
運命は見えるものではないし証明もできません。でも運命などないと抗って生きてみたところでそれも運命なのかもしれません。つまりは、人の力では到底及ばないものもある、ということがラスト 10分で一気に叩きつけられます
人の生死もまた運命
私たちはそれを受け入れ、命ある限り精一杯生きるしかない
最後の青空からはそんなメッセージを受け取りました
批判的なコメントを読むと、どうも想像力の足りない人が多いように感じます
監督(製作)は皆さんが批判しているような内容は分かり切ったうえで、あえてこの設定に挑んだのです(推測ですがw)
どんなに素晴らしい作画も、声優たちの演技、時にはストーリーですらツールの一部にすぎません
もちろんその重要さは否定しませんし、そこに感動を覚えることもあるでしょう。しかし、それをいちいちあげつらって映画全体を分かった風に批判するのは如何かと思います
例えて言うならピカソの絵を見て“肌の色がおかしい”とか“目と鼻の位置はこんなんじゃない”と騒いでいるコドモのようです
そういった意味では観る人を選ぶ映画なのかもしれません
アニメ映画としての出来については、作画、ストーリー、音楽、演出それぞれに力の入れ具合が伝わってきて、それがテーマと相まって昇華した秀作だと思います
入れ替わりにタイムスリップを絡めたストーリーは意外性もあり、ちょっとずつ観客を置いていく演出は計算通りでしょう
最初は「なるほど。。こんな感じの青春ものか。。」と一歩引いてみてましたが、術中にはまった私は次第に前のめりになり、「この先どうなるんだ。。?」と久々に引き込まれた一本でした
ところどころ、設定の綻びや足りないなと思う部分もありますが、それを補って余りある出来だと思います。(偉そうですみません、興業成績が証明してました)
それから、これは後で知ったのですが、元ジブリの作画監督が参加していたり、キャラデザインが「あの花」の人だったりと、それぞれの才能を発揮してプロとしての仕事を成し遂げ、新海監督の世界観にエンターテインメント性を加えたことでより厚みのあるものに仕上がっているのではないかと思います
音楽について一言。映画を見る前は“なんかいつものRADWIMPSと色が違う。。意味が解らん??”と思いました
ただ、映画を見て納得。まさに映画のために作られた曲だったのです
歌以外の音楽もすべて彼らが作ってますが、新しい一面が見られ、改めて才能のある人たちだと感心させられました