「物足りない理由を考えてみた」君の名は。 佐々木さんの映画レビュー(感想・評価)
物足りない理由を考えてみた
絵が綺麗であり、作中で画のタッチや時間の推移速度が次々と変わるため生き生きとしたアニメーションにふさわしい映画だった。瀧と三葉の掛け合いに笑わされることもありポップに見ることが出来る良い映画だったが、鑑賞後にこの映画を通して作者は何を伝えたかったのかを振り返っても何も鑑賞前後で得られたものがないと感じた映画だった。
気軽に見れて面白い作品だったのに何故得るものがない映画と感じてしまったのか。その理由を鑑賞後に再考した結果、①メッセージがなかったこと、②新鮮さを感じなかったことの二点が理由だったと感ぜられた。
①メッセージがなかった
この映画は瀧と三葉の恋愛映画であるが、先輩に恋する過程は描かれていても作中に瀧ー三葉感の恋愛の駆け引きや悩みは描かれていない。また、三葉の親子間の軋轢も解消されていないし、唯一メッセージらしく感じられる「結び」に関しても映画を見る限りではメッセージを掴み取ることが出来なかった。
②新鮮さを感じなかった
メッセージがない作品でも良い作品は多く存在する。ホラー作品はメッセージがなくとも気味の悪い感覚を味わえれば良作であるし、英雄譚は主人公が成長する過程やその未知の世界観に心躍れば良い作品といえるだろう。しかし、「君の名は。」は同じメッセージが無い作品でも新鮮さを感じられなかったため、良い作品と感じることが出来なかった。
「君の名は。」は未曾有の彗星落下と時を超えた精神置換を描いたSF作品だが、基本的には二人の高校生の日常を描いた作品である。そこで描かれている日常は今生活している現代であり、特別な異世界感や未来感を感じることは出来ない。また、タイムリープや精神置換も稀な設定でないため新鮮さを感じることが出来なかった。
以上の二点が気軽に楽しく見られたのに得られたものがなく物足りないと感じた理由だろう。日常を描くことで違和感無く観客を引き込めたが、日常すぎたために特別なものを描くことが出来なかった作品だと感じた。しかし、描かれているのがリアルな日常であるが故に、数十年後に見直したら「iphoneなんて固体端末を使っていたな」や「人が自動車を運転してる時代もあったのか」と時代を経て「現代の日常」が新鮮さを持てば化けるアニメ作品であり、将来見返すのが楽しみな作品でもある。