「新海誠作品の1区切りの答え」君の名は。 たかたかさんの映画レビュー(感想・評価)
新海誠作品の1区切りの答え
「『君の名は。』は、いい。」そういう評判を聞くと同時に、「『秒速5センチメートル』のアンサーとなる作品だ。」という評判を聞いていた。そこで、過去の新海誠作品をすべて観て、その上で『秒速5センチメートル』を、さらに、もう1回観た。なるほど。傾向としては、時間や距離の隔たりを越えた愛を求めながらすれ違う男女を表現しているのか、ということを知った。その上で、他劇場で『君の名は。』を1回観た。ジェットコースターのように展開が速く、さらに距離のみならず時間軸が異なる2人が入れ替わっているということに気づくことができなかった。何が『秒速5センチメートル』のアンサーかもわからなかった。圧倒的国語力の欠如である。
そこで、小説版2冊を読破した。まず、原作小説で主人公2人の心情と時間軸と出来事をしっかり理解した。(映画では理解できなかったのが恥ずかしい限りであるが)その後、"Another Side"というサブキャラクター視点を含んだ短編集を読んだ。そこで、(瀧の三葉への入れ替わり生活の困惑というギャグストーリーを除いて)、それぞれのキャラクターの持つある種の思想を知ることができた。特筆すべきは第四話「あなたが結んだもの」であるだろう。なぜ宮水敏樹が結局宮水三葉の説得に応じ、住民を避難させたのかという謎が解ける。さらに、宮水神社の歴史及び信仰の内容に関して細かい設定が追加されているため、おもしろい。その上で、今日、もう1度映画を観てみると、「あー、だからかー」と思わせるシーンが多く、奥行きが感じられ、(様々な意味で)おもしろかった。楽しめた。他の人にも、新海誠作品をすべて観てから『君の名は。』の1回目を鑑賞し、それでポカンとしてしまう気持ちをぐっと抑えて、小説2冊を読み、その後で2回目の鑑賞に行ってもらいたい。瀧と三葉だけでなく、それ以外のキャラクターにも何らかのすれ違いとその解消を見て取ることができる。そのおもしろさ、深さといったら言葉にできず、必ず忘れられない作品となった。
また、最後のシーンも重要である。ここが『秒速5センチメートル』のアンサーとなる部分である。瀧も三葉もおぼろげながら相手のことをずっと思っていた。そして2人は別々の電車ですれ違う。『秒速5センチメートル』であれば、頭の中で呼びかけ合って終わりである。しかし、今回は違う。すれ違った瞬間お互いにお互いのことを気づく。そして隣の駅から降りて互いに走り出し、すれ違って振り返る。そして、「君の名は。」と問いかけるのである。つまり、思い続けることで、届くということである。これは、隕石が落ちるシーンや『Another Side』にしか描かれなかった、宮水俊樹がなぜ避難誘導という英断に至ったのか、三葉の母二葉の過去にもつながる。
ここまで、奥行きが感じられ、しかも(様々な意味において)美しい作品を観れてよかった。一生忘れられない作品になるだろう。