「.」貞子vs伽椰子 瀬雨伊府 琴さんの映画レビュー(感想・評価)
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劇場にて鑑賞。タイトルコール~お約束の砂嵐~ブルースクリーンのTV画面からの引きで室内を見せ、作品に放り込まれるファーストシーン。『リング』ベースで物語が進行し、『貞子feat.伽椰子』と云った態だと思ったら、エンドクレジットで「世界観監修」と云う欄に鈴木光司の名があった。上映中、アチラコチラで失笑が漏れるシーンが数回あったが、全篇本気で怖がらせようとしているのは伝わった。呆気に取られてる内に迎えるラストはやや難解だし、置き去りにされた伏線めいたのも存在する。ご贔屓の監督なので甘い目の採点。70/100点。
・『リング』シリーズ('98~)は、'95年のTVドラマから始まり、『貞子3D('12)』とタイトルを変えた続篇シリーズが作られた。一方、『呪怨』シリーズ('12~)は、『学校の怪談G('98)』と云うオムニバスTVドラマの短篇からスタートし、製作会社オズの倒産を持って、『呪怨 -ザ・ファイナル-('15)』が公開された。はっきり云ってしまえば、孰れの近作も食傷気味で余り歓迎出来無い仕上がりだった。そしてどちらのシリーズも海を渡ったハリウッドでリメイク版が数作ずつ作られたが、それもこの数年、新作は途絶えてしまっている。
進化し続けるJホラーと云うジャンルにおいて、監督は間違い無くトップランナーの一人だと思う。この手垢が附き過ぎた世界観の確立したヒットシリーズ2タイトルを、監督がどの様に掛け合わせるか興味を持った。だがよく考えると、幾ら嘗て食べ過ぎて厭き気味だった食材同士を、自分好みの腕の良いシェフが調理するとなると、諄くなる事はあったとしても、自分の舌に合わない不味い料理になる筈がない事に、鑑賞後気付かされ、相変わらず旺盛な監督のサービス精神が見せ付けられる内容となっていた。
・丁寧な導入部を始め、物語の整合性を保ち判り易さを優先する為か、二つのシリーズのお約束や設定が大きく変更されている。ごく短時間に圧縮された「呪いのビデオ」はなかなかフルサイズで観せず、最後は更に変化しているし、佐伯家に関しては、外観だけに留まらず間取り迄、微妙に変わっていた。ビデオを観た事による呪われた期間は極端に縮められ、甲本雅裕の“森繁新一”教授の自費出版本には四つの呪いの解き方が記されており、劇中、他にもあるかもしれないと発言していた。
・基本的な作りや展開は、『カルト('13)』での大まかなフォーマットを活かしつつ、登場する新しい「呪いのビデオ」は『ほんとにあった!呪いのビデオ the MOVIE('03)』内の映像を彷彿させ、他にも監督のフィルモグラフィーの断片がアチコチに散見出来た。亦、それなりの予算を持ったメジャー映画なので、普段、大人の事情で自らVFXを担当する事が多い監督が、本当に撮りたかったのはこんな画だったのかと感心した。
・監督によると、安藤政信の“常盤経蔵”と菊地麻衣の“珠緒”のキャラクター造形は手塚治虫の“ブラック・ジャック”と“ピノコ”のコンビを意識したと云う。確かに二人の衣裳や遣り取りにその原型を窺い知る事が出来る。登場した時から二人組だと云う暗示が、迎えるクライマックスで予想通りの顛末になっていた。ところで本作では、貞子のみが髪の毛で攻撃していたが、過去の『呪怨』シリーズ内では伽椰子も髪を使っていたと思うのだが、これもキャラクターを差別化する為の細かな変更点だろうか。
・“倉橋有里”の山本美月は普段の表情と対比した自らの運命と向き合う意思の強さが出てたし、“高木鈴花”の玉城ティナは今にも零れ落ちそな瞳が印象的だった。追い詰められ豹変する“上野夏美”の佐津川愛美も呆然自失の様が佳かった。手足がスラッと伸びた“貞子”の七海エリー、動きが少し変わった“伽椰子”の遠藤留奈、登場シ-ンの殆どは座位だった“俊雄”の芝本麟太郎と云う三人のキャストも一新されている。他にも監督ならではのキャラクターが味わい深かった。
・都市伝説やいじめと云う現代風のアレンジがなされた中、往年のビデオ画面を意識したノイズ雑じりの走査線が際立ったザラついた画質を大きなスクリーンで観るのも悪くなかった。エンドクレジットで流れる聖飢魔IIの主題歌「呪いのシャ・ナ・ナ・ナ」には主に『呪怨』系のアレヤコレヤがサンプリングされていた。
・元々'15年のエイプリルフールの企画から始まり、Twitter上で手を挙げた監督に白羽の矢が立ち実現した企画(ここら辺り迄はリアルタムで成り行きを眺めていた)。但し同じアイデアをユニバサールも持っており、共同で角川映画40周年記念作として完成に漕ぎ着けたらしい。
・鑑賞日:2016年6月18日(土)