劇場公開日 2016年6月18日

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「呪殺! 二大怨霊グラッジ・マッチ」貞子vs伽椰子 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5呪殺! 二大怨霊グラッジ・マッチ

2016年6月24日
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鑑賞方法:映画館

楽しい

怖い

超大作『バットマンvsスーパーマン』に続き(←続かない)、
『リング』シリーズの貞子、『呪怨』シリーズの伽椰子、
Jホラーの二大巨頭がもうとっくに死んでるけど
死闘を繰り広げるという衝撃作が遂に登場。
完全に“見えてる地雷”としか思えないその企画性、
こちらの鑑賞意欲を容赦なく削ぎ落としにくる
プロモーション(という名の茶番)をものともせず、
その地雷、踏んでやるさ、ああ踏んでやるともさと鑑賞に臨んだ。

とまあ最初の数行でかなり茶化してるワケですが……
意外やこれが割と正統派な作りで楽しめる出来!
流石に『リング』『呪怨』初期作との比較は酷だが、
Jホラー界に残る汚点『貞子3D』はもとより、少し
マシになった『貞子3D2』より格段に出来が良い。
『呪怨』シリーズで比較するなら『~終わりの始まり』
には劣るが『~THE FINAL』よりはずっと良い、という所。
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本映画における最大の白眉は恐らく、世紀の駄作
『貞子3D』でバカバカしいマスコットキャラと
化してしまった“貞子”を、いかに説得力ある形で
復活させるかというアイデアだ。
モキュメンタリーホラーでならした白石晃士監督の起用は
この点において完璧だったとさえ言えるかもしれない。
『ノロイ』や『本当にあった!呪いのビデオ』シリーズ等で
非現実を現実に近付ける手法を追及してきた氏は、
“貞子”を都市伝説という形で復活させたのである。

怪異を語る事は怪異の存在をこの世に認めること。
語られることで怪異は力を得る。言霊という奴だ。
今回の“貞子”は『リング』('98)の“貞子”とは別物。即ち
『数多の人間に語り継がれることで具現化した強力な都市伝説』。
この切り口は巧い。オリジナルを否定することなく
別設定の“貞子”を生み出すことに成功しただけではなく
(今回は“井戸”の位置付けも異なっている)、
『リング』公開以降にフェイクホラー映像が世に溢れた
現実の流れと地続きの設定とも取れるのである。

対する伽椰子&俊雄くんの方は大きく設定を変えていないが、
『呪怨 THE FINAL』でマイホームを更地にされちゃったので、
初期作に近い雰囲気の家にお引っ越しされている。
ただし人が近寄らなくなったので、家のボロボロ具合はスゴい事に。
いつもの半分の尺しか与えられていないので、襲撃も
かなり早いしアグレッシヴだ(←なにその業界人的な気遣い)。
相手が小学生だろうが田中美里だろうが容赦無し。
伽椰子が遂に登場するシーンも、ラスボス感半端ない。

万を持しての二人の対決はやや短めだけど、
貞子さんの髪の毛攻撃にはヒエエエとなるし
伽椰子さんも自慢の握力と息子さんで対抗。
この勝負、果たしてどちらが勝利するのか!?

……と煽ってみたものの、ここはまあ想定内な決着。
どちらを勝たす/負かす訳にもいかないのなら、
あの“手”がアイデアとして浮かぶよね、やっぱ。
しかしながらラヴクラフト作品も連想させるような
名状し難いアレはかなりのおぞましさだし、
○望が漂うラスト(○は希か絶のどっちかだが
ネタバレ防止で伏せとく)も個人的には悪くない。
という訳で、ひとつの作品内で日本の2大怨霊を
紹介し対決させるアイデアは良く練られている。
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ここからは不満点。
本作はいわばお祭りムービーなので、作りは非常に
オーソドックスにせざるを得ない部分もあり、そこが
色々とオリジナル版の個性や恐怖を殺してしまっている。

例えば、『呪怨』でお馴染みの時系列操作はそもそも
この物語展開には向いていないから今回はナシ。
“呪いのビデオ”の映像も、本当にありそうなリアリティ
はあるが、オリジナル版のえもいわれぬ不気味さはない。
今回の物語にビデオ映像からの謎解きが不要な以上、
映像を作り込んだ所で後の展開に活かせないからだろう。

それと、恐怖演出。
思っていた以上に怖い映画には仕上がってはいたし、
怪異が襲ってくる直前の緊張感の煽り方とかは上手いが
(冒頭のシーンとか押入れの襖から外を覗くシーンとかグッドね)、
ひとつひとつの恐怖シーンがやや急ぎ足でねちっこさが足りない。
両者の活躍を見せないといけないという事情からだろうが、
Jホラー的な、粘着質で後を引き摺るような恐怖は薄めだ。

あと、主人公らの描写も従来のシリーズ以上に薄い。
山本美月、玉城ティナ、安藤政信ら主演陣自体は良いし、
佐津川愛美が業の深い役でインパクトを残すし
(一番ヒドい目に遭ってるもんねえ(苦笑))、
森繁教授には何度も爆笑しそうになったものの、
彼らはあくまで二大スターの引き立て役に収まっている。
物語を社会的テーマで味付けした部分がほぼ無いのも残念かな。
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はい、佐伯家前から実況して参りました世紀の
対決の解説も、本日はここまでということで。

企画の性質上、どうしても恐怖映画として不利な点が
多いと思ったんですが、それらのハンデがある割に
ずいぶん怖いし、肝心の一騎討ちも悪くなかったですね。
物語やテーマに深みをもたせるのは流石に難しかったと
みえますが、予想以上に面白い試合になったという印象です。
白石監督はじめスタッフの皆さん、
本日はどうもありがとうございました。
では皆さん、また次回の放送でお会いしましょう。
解説は私、浮遊きびなごでした。

ああ、あと、エンドロールが終わるまで席は
お立ちにならないように。けどその後で隣の友達に
電話をかけるのは、心臓に悪いからやっちゃダメよ。

<2016.06.18鑑賞>

浮遊きびなご