「実話を描くだけではない面白さ」日本で一番悪い奴ら 森泉涼一さんの映画レビュー(感想・評価)
実話を描くだけではない面白さ
北海道警察の日本警察史上最大の不祥事と呼ばれる事件を長編2作目となる白石和彌監督が映画化。
初の長編映画となった前作「凶悪」に引き続き実話を描いた本作は、忠実に描くだけではないこれぞ白石映画だと感じる面白い点がある。
本作の主人公、綾野剛演じる諸星要一はくそがつくほど真面目な男だが署内では決して仕事ができる男ではなく、決して周囲から理想とされる警察官ではない。どちらかといえば真面目が空回りしている男だがその分、勤勉さは群を抜いている。この特性にいち早く付け込んでくるのがピエール瀧演じる村井定夫だ。この不祥事の実話だけを描くと例えるなら、この男との出会いからが本編開始と言ってもいい。
ここから諸星は覚醒したかのように違法捜査や暴力団を言い含めての覚せい剤取り締まりなどで功績をあげていくことになるわけだが、この根幹にはやはり諸星の真面目さがあり功績の後押しをしている。署内の捜査方針やそもそも村井が諸星に囁いた言葉は時代背景の違いから当時のやり方が本当に間違っているのかなど現代社会と比べて判断がつかない(明らかに間違ってると思われる描写もある)。そうなると本作を楽しむこつとしてはこういう不祥事が過去にあった中で当事者である警察は何を考えていたのかを想像しながら鑑賞すると非常に楽しめる。
そして、実話を描くという面を利用しフィクションを交えながら体現させたのが白石監督の技巧的な面である。一見、冒頭から諸星のくそ真面目なキャラに吸い込まれ、それを活かした変貌に見入ってしまうが、これは諸星に限ったことではなく警察署内の人間全員に同じことが言える。犯人検挙や拳銃の摘発でも、やり方は違法だろうが目的を達成するためにはがむしゃらになり動き出す。これは逆を返せばくそ真面目と置き換えられる点であり、不祥事を描く映画なのにどこかポジティブに捉えられ、時代背景から行き過ぎた捜査をしただけでこういう集団は現代に必要不可欠だと考えるとこれが白石監督が放つメッセージなのではとも感じられる面白さがある。
キャスト陣で異彩を放っていたのが綾野剛だ。ド真面目から変貌し、真面目に悪いことに取り組む精神を見事に具現化。お笑い、ミュージシャン、歌舞伎役者と多彩な役者が揃う中でやはり俳優が役者として一番だと証明してくれた映画とも言える。R15指定の要因の一つでもあるポルノシーンや覚せい剤使用のシーンとアドリブ演技も含めた幅広い演技力は今後も注目できる。逆に自身のテリトリーで育んだ才能を活かせなかったのが綾野剛の周囲にいる俳優陣。歌舞伎役者である中村獅童は歌舞伎とのギャップで最低限の面白さを残しているものの、他の二人は蚊帳の外。お笑い芸人代表ではなく外人の顔立ちだけで選ばれただけの似非俳優。そして、「TOKYO TRIBE」で調子づいたラッパーは棒読みセリフを華麗に披露し退散。この二人を出演させるなら若手俳優にチャンスを与えるべきだったのでは。