「エモーショナルなキャラが魅力も、壮大な世界観をもて余し気味」ウォークラフト 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
エモーショナルなキャラが魅力も、壮大な世界観をもて余し気味
原作ゲームはタイトルくらいしか聞いた事が無いが、
『月に囚われた男』『ミッション:8ミニッツ』の
ダンカン・ジョーンズ監督がメガホンを取るという
事で気になっていた作品。この2作品だけで“デビッド・
ボウイの息子”という肩書きは不要になるくらいだが、
今回は彼にとって初の大作・初のファンタジー。
されされ果たして吉と出るか凶と出るか。
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自分の中での結論は……「惜しい!」。
オリジナルの世界観が壮大過ぎて2時間内に納めるのは
難しかったのだろうか。秀作になり得た要素、光る要素は
散見されるのに、あらゆる描写が駆け足で余裕が無い。
あるいはコンパクトにまとまり過ぎている
(カットされた部分も相当多いんじゃないだろうか?)。
展開のせわしなさは特に冒頭30分で顕著だ。
2分毎に未知の単語やロケーションが出てくるのに、
それらについて説明は殆どされず、なかなかこの
世界観に気持ちを馴染ませてくれないのだから。
舞台の地理、デュロタン達のオーク内での立ち位置、
ローサーと息子の関係性、民が“守護者”に寄せる信頼感
など、後々の見せ場に繋がる描写が薄い点は特に痛い。
それに本作、シリーズ化の構想があるのかもだが、
それが大々的に発表されてもいない以上は、この
1作はもう少しキリの良い終わり方にしてほしかった。
だって、かなりフラストレーションのたまる結末だし。
アクションシーンについても期待は禁物。
ボリュームは適度だが、オリジナリティのある演出は
少なくアッサリとした印象。クライマックスに挿入する
には寂しいゴーレムの造形やアクション、強大な
“ブラックハンド”やメディヴのあっけない負け様など、
随所随所で物足りなさが残る。
まとめると、余裕のない語り口、今一歩なアクション演出、
シリーズ序章であるがゆえのフラストレーション、
これらが鑑賞後の不満点。
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では本作は凡庸な出来か?と問われると、それも違う。
本作で最も魅力的なのは、この手の物語のお約束とも
言える筋書きを良い意味で裏切るキャラクター達だ。
オークも人間も一概に善/悪に括れないし、高潔だろうが
残忍だろうが、この物語の中では誰も無傷では済まない。
一度は“フェル”に屈したが、最後の最後に“守護者”として
死んだメディヴ。そんな彼の末期の涙が心に残った。多くの人々を守ることで、彼は内に抱えた孤独を
癒したかったのだろう。心を毒す力に手を出したのも、
より多くの人々を守りたいと望んだ結果だったのだろう。
己の死と引換えに同胞達の誇りを取り戻した上、
和平への一縷の望みも繋いだ若き族長デュロタン。
人間とオークの架け橋になるというより大きな
目的の為、ローサーへの想いを殺したガローナ。
悪に堕ちた強大な師に立ち向かう気弱なカドガー。
民を守る為に己の首を差し出したレイン王。
彼らは皆、自分の命より大きなものの為に、自分を犠牲にした。
オークも人間も、仲間や家族を想う心は同じなのだ。
なのに、
初めに相手の命を奪う選択しか出来ない力に頼ったが為に、
衝突が始まる。衝突によって相手への憎しみが生まれ、
それが次のより大きな衝突を、より大きな憎しみを生む。
本作はそんな憎悪の悪循環をまざまざと描きつつ、
微かな希望も残して終わる。
息子を殺された男は報復の道を歩み続けるのだろうか。
殺された男の息子は和平の道を探る鍵となるのだろうか。
続編が出るなら是非観てみたいが――
興行的に苦戦を強いられているらしい本作。続編が出るか
怪しい所なのが……これまたフラストレーションを煽る。
<2016.07.01鑑賞>